前回のコラム「日本の高齢化のいま・これから」では、65歳以上人口が過去最高の3,624万人にのぼり、今後も高齢化が進んでいく見通しであることをご紹介しました。
こうした人口構造の変化を受けて、高齢者に長く働いてもらう体制づくりは、多くの事業主にとって避けて通れないテーマになりつつあります。
その際にまず押さえておきたいのが、高年齢者雇用安定法です。
この法律は、事業主に対して2段階の対応を求めています。
65歳までは「義務」、70歳までは「努力義務」という構造です。
この違いを正確に理解しないまま「うちは継続雇用制度があるから大丈夫」と考えていると、実は義務の内容を満たせていない、というケースが発生します。
今回は、この法律の基本的な仕組みを整理してご紹介します。
高年齢者雇用安定法の全体像
高年齢者雇用安定法は、定年年齢そのものの下限を定めたうえで、事業主に2つの措置を求める、3層構造になっています。
- 定年を定める場合の下限は60歳(第8条)→ 義務(原則)
- 65歳までの高年齢者雇用確保措置(第9条)→ 義務
- 70歳までの高年齢者就業確保措置(第10条の2)→ 努力義務
「義務」と「努力義務」では、法的な重みが異なります。
「義務」は、実施していない場合、ハローワークからの指導・助言、さらには勧告の対象になり得ます。
「努力義務」は、実施しなくても直ちに違法とはなりませんが、実施に向けた取り組みが求められています。
まずは土台となる60歳定年のルールから確認し、そのうえで65歳・70歳それぞれの措置を見ていきます。
まず、定年は60歳を下回れない(第8条)
高年齢者雇用安定法第8条は、事業主が定年の定めをする場合、その定年年齢は原則として60歳を下回ることができないと定めています。
「60歳定年」は、企業が独自に配慮している水準ではなく、この条文が定める法律上の下限です。
裏を返せば、定年制度自体を設けない(定年の定めをしない)ことは自由ですが、定めるのであれば60歳未満にはできない、という整理になります。
なお、高年齢者が従事することが困難と認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事する労働者については、この限りでないとする例外規定もあります(対象業務は個別に確認が必要です)。
この60歳という下限を前提に、次の第9条・第10条の2が、65歳・70歳という、より先の年齢までの雇用・就業の確保を事業主に求める仕組みになっています。
65歳までの高年齢者雇用確保措置(義務)
高年齢者雇用安定法第9条は、事業主に対し、次の3つの措置のいずれかを講じることを義務付けています。
- 65歳までの定年の引上げ
- 65歳までの継続雇用制度の導入(再雇用制度・勤務延長制度)
- 定年制の廃止
どれを選ぶかは事業主の判断に委ねられていますが、大半の事業主が2の継続雇用制度を選択しています(約2/3)。次いで、定年の引上げ(約1/3)、定年制の廃止(約4%)となっています。
※令和7年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果より
継続雇用制度は「原則、希望者全員」が対象
継続雇用制度については、かつて労使協定で対象者を限定する基準(対象者基準)を設けることが経過措置として認められていました。
しかし、この経過措置は令和7年3月31日をもって終了しています。
現在は、継続雇用制度を導入する場合、原則として希望者全員を対象とする必要があります。
就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合を除き、会社側の判断だけで継続雇用を拒むことはできません。
「うちは定年60歳、継続雇用65歳。ただし会社が認めた者に限る」といった制度のままになっている場合、現時点では法律の要件を満たしていない可能性があります。
就業規則を確認し、対象者基準が残っていないか、この機会に見直しておくことをおすすめします。
70歳までの高年齢者就業確保措置(努力義務)
令和3年4月の法改正により、70歳までの就業機会確保が努力義務化されました。
高年齢者雇用安定法第10条の2は、次の5つの措置のいずれかを講じるよう努めることを事業主に求めています。
- 70歳までの定年の引上げ
- 70歳までの継続雇用制度の導入(再雇用制度・勤務延長制度)
- 定年制の廃止
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入(創業支援等措置)
- 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入(創業支援等措置)
1〜3は雇用による措置である一方、4・5は雇用によらない措置(創業支援等措置)である点が特徴です。
フリーランスとして業務委託契約を結ぶ、NPO等の社会貢献事業に従事してもらう、といった形での就業継続も、制度上は選択肢に含まれています。
創業支援等措置は過半数労働組合等の同意が必要
4・5の創業支援等措置を導入する場合は、過半数労働組合(それがない場合は労働者の過半数を代表する者)の同意を得ることが必要です。
あくまで努力義務ですので、現時点で未対応であっても直ちに問題になるわけではありません。
ただし、今後の法改正の流れ(65歳までの措置がかつて努力義務から義務へと引き上げられてきた経緯)を踏まえると、将来的に義務化される可能性も視野に入れて、早めに検討しておく価値はあると考えています。
毎年の報告義務(いわゆる「ロクイチ報告」)
高年齢者雇用安定法第52条第1項に基づき、事業所の規模にかかわらず、すべての事業主は、高年齢者雇用状況等報告を実施する義務があります。
- 報告基準日:毎年6月1日現在の状況
- 提出期限:毎年7月15日まで(7月15日が閉庁日の場合は翌開庁日)
- 提出単位:複数の事業所が存在する企業も本社で一括提出
この報告は、65歳までの雇用確保措置の実施状況を確認するものです。
「継続雇用制度はあるが、対象者基準が残ったままだった」といったケースが、この報告をきっかけに発覚することもあります。
毎年提出しているからといって安心せず、内容が最新の制度に沿っているか、あわせて確認しておくとよいでしょう。
関連する制度・助成金
高年齢者雇用安定法そのものとは別に、実務上あわせて押さえておきたい制度があります。
高年齢者雇用等推進者
高年齢者雇用安定法第11条は、高年齢者の雇用確保措置等を推進するための業務を担当する者(高年齢者雇用等推進者)を選任するよう努めることを、事業主一般に求めています(規模要件はありません)。
詳しくは、事業主が選任・設置すべき「担当者・窓口」まとめでも触れていますので、あわせてご覧ください。
65歳超雇用推進助成金
65歳までの雇用確保措置や70歳までの就業確保措置を制度として整備する際、活用を検討できる助成金です。当事務所のコラムでは、次の3コースをそれぞれ解説しています。
- 65歳超継続雇用促進コース(定年引上げ・廃止、継続雇用制度の導入)
- 高年齢者無期雇用転換コース(有期契約社員の無期転換)
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース(評価制度・研修制度等の整備)
いずれのコースも、高年齢者雇用安定法を順守していることや、高年齢者雇用等推進者を選任していることが要件に含まれています。
制度整備を検討する際は、まず高年齢者雇用安定法上の義務・努力義務の内容を満たしているかを確認したうえで、助成金の活用を検討する順番になります。
まとめ
高年齢者雇用安定法は、「65歳までは義務」「70歳までは努力義務」という2段階構造になっています。
特に65歳までの継続雇用制度については、令和7年3月末で経過措置が終了し、原則として希望者全員が対象になっている点は、見落とされがちなポイントです。
自社の就業規則や継続雇用制度の運用が、現行の法律の内容に沿ったものになっているか、この機会に確認してみてはいかがでしょうか。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の法令・公表資料に基づく情報です。制度の詳細・運用は今後の法改正や通達等により変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。




