「契約社員として長く働いてくれているベテランスタッフがいるが、更新のたびに雇用が不安定なままでよいのだろうか」
そう感じたことがある経営者の方は少なくないのではないでしょうか。
有期契約で働く50代以降の従業員を無期雇用に切り替えることは、本人の安心につながるだけでなく、長期的な人材確保の観点からも意味のある取り組みです。
そうした無期転換の取り組みを金銭面から後押ししてくれる制度が、65歳超雇用推進助成金の「高年齢者無期雇用転換コース」です。
本コラムでは、令和8年度時点の情報として、この制度の仕組みを整理してご紹介します。
※65歳超雇用推進助成金には全3コースがあります。各コースの比較は65歳超雇用推進助成金の全コース一覧をご覧ください。
高年齢者無期雇用転換コースとは
このコースは、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換させた事業主を支援する制度です。
契約社員・嘱託社員といった有期契約の形で働く従業員について、「あと数年で定年」という段階になってから急に無期転換を検討するのではなく、定年前の一定の時期に無期雇用へ切り替えることで、本人のモチベーションや会社への定着意欲を高める狙いがあるとされています。
対象事業主の要件
【まず確認】今の状態で自己診断できるもの
- 雇用保険適用事業所であること
- 高年齢者雇用安定法を順守していること
※「定年60歳、継続雇用65歳。ただし会社が認めたものに限る」は令和8年度時点ではNGです
【計画前】計画申請の前に整えておくもの
- 無期雇用に転換する制度を就業規則に規定している
- 高年齢者雇用等推進者を選任していること
- 高年齢者雇用管理措置を1つ以上実施していること
┗教育訓練、作業環境や健康管理の改善、職域拡大・配置や処遇の最適化、賃金体系や勤務時間制度の見直しなど
対象労働者の要件
- 50歳以上であること
- 転換時の年齢が定年年齢未満かつ64歳未満であること
- 転換後、65歳以上まで雇用される見込みがあること
- 有期契約労働者として支給対象事業主に雇用される期間が、転換日において通算1年以上5年以内であること
「何年働いた契約社員でも対象になる」わけではなく、通算雇用期間に上限(5年以内)が設けられている点には注意が必要です。
※派遣労働者NG、定年70歳の事業所であっても64歳以上の労働者はNG
支給額
支給額は、事業主の規模によって次のとおり定められています。
| 区分 | 支給額 |
|---|---|
| 中小企業 | 40万円 |
| 上記以外 | 30万円 |
支給対象となる人数には上限があり、1支給申請年度(4月〜3月)について1適用事業所あたり10人までです。仮に中小企業が上限いっぱいの10人を転換した場合、単純計算で400万円の助成となる計算です。
なお、ここでの「中小企業」の具体的な資本金・従業員数の基準は助成金でよく出てくる「中小企業事業主」とは?を確認ください。
キャリアアップ助成金「正社員化コース」の第1期のみ対象の労働者の支給額は同額の40万円です。事務負担や経営に対する影響は、本助成金の方が少ないように感じます。
申請の流れ
このコースは、「計画申請」と「支給申請」の2段階方式になっている点が特徴です。
あらかじめ「無期雇用転換計画」を作成し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の認定を受けたうえで、計画期間内に転換を実施することが肝要です。
- 事前準備:就業規則の見直し(無期転換条文の追加)、労基署へ届出
- 計画申請:無期雇用転換日の6か月前~3か月前に提出、認定
- 転換の実施:認定された計画期間内に、対象労働者を実際に無期雇用へ転換
- 賃金算定:転換後6か月の賃金支払い(11日未満は除外)
- 支給申請:支払日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請
- 審査:現地調査が入ることもある
「転換してすぐに助成金がもらえる」わけではなく、計画段階からの準備と、転換後の勤務実績の確認期間を経て申請する流れになるため、余裕を持ったスケジュール管理が必要です。
特に計画書は3か月前までに提出が必要なため、提出後に不備が判明した場合は計画期間開始日までに補正を行います。不備が解消できない場合は取下げ&再提出となります。
※8月1日に転換を予定し、4月に計画書を出しても不備発覚が5月になれば間に合わない可能性があります(取下げが完了しないと再提出できない)。
よくある質問
Q. 定年間際の従業員を無期転換しても対象になりますか?
対象労働者の要件として「定年年齢未満であること」に加えて、通算雇用期間が「1年以上5年以内」であることが求められます。定年直前のタイミングでは、この期間要件を満たすかどうかを個別に確認する必要があります。
Q. 計画申請をせずに転換してしまった場合はどうなりますか?
このコースは計画認定を受けたうえでの転換が前提となっています。転換を検討する段階で早めに計画申請の準備を進めることが重要です。
Q. 65歳超雇用推進助成金の他のコースと併用できますか?
助成金の支給を受けることができる事業主が、同一の事由により、他の国又は地方公共団体等の補助金等の支給を受けた場合には、当該支給事由によっては、不支給となります。
まとめ:計画的な準備が受給のカギ
高年齢者無期雇用転換コースは、有期契約で働くベテラン従業員の雇用を安定させる取り組みを後押ししてくれる制度ですが、「計画申請→転換の実施→支給申請」という段階を踏む必要があり、思い立ってすぐに使える助成金ではありません。対象労働者の要件(年齢・通算雇用期間)を早めに確認し、計画的にスケジュールを立てることが受給のポイントです。
なお、65歳超雇用推進助成金には、このほかに「65歳超継続雇用促進コース」「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」もあり、自社の状況によってはそちらの活用が適している場合もあります。
「うちの会社の契約社員は対象になるか」「どのタイミングで計画申請をすればよいか」といったご相談は、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の公表資料に基づく情報です。助成金の要件・支給額等は、年度改定に限らず随時見直されることがあります。最新情報は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)または厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。



