「またこの担当者?」となっていませんか
助成金の申請や法改正対応を進めていると、「キャリアアップ管理者」「雇用推進者」「相談窓口の担当者」「衛生管理者」など、さまざまな名称の担当者・窓口の設置や選任を求められる場面が出てきます。
それぞれ別の制度・法律に基づくものですが、実際には同じ人(総務担当者や人事担当者など)が兼任しているケースも多く、「結局、自社は何を、誰に、いくつ担当させればよいのか」が分かりにくくなりがちです。
本コラムでは、これまでご紹介してきた制度に登場した担当者・窓口に加えて、労働関係法令に登場する主な「推進者」や労働安全衛生法上の管理体制も含め、根拠・位置づけ・役割を横断的に整理してご紹介します。
法律上「義務」として求められる担当者・窓口
努力義務ではなく、選任・設置そのものが法律上の義務とされているものです。
| 名称 | 根拠法 | 位置づけ | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| ハラスメント相談窓口の担当者 | ・労働施策総合推進法 ・男女雇用機会均等法 ・育児・介護休業法 | 雇用管理上の措置義務 | パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスハラ・就活セクハラの相談対応、事実確認、被害者への配慮措置等 |
| パート・有期雇用労働者の待遇差説明窓口 | パートタイム・有期雇用労働法 | 労働条件明示事項(2026年改正) | 正社員との待遇差の内容・理由について、労働者から説明を求められた際の対応 |
| 障害者職業生活相談員 | 障害者雇用促進法 | 障害のある労働者を5人以上雇用する事業所ごと | ・資格認定講習を修了した者等のうちから選任し、障害のある労働者の職業生活に関する相談・指導を行う。 ・ハローワークへの届出が必要 |
ハラスメント関連の相談窓口は、パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスハラ・就活セクハラのそれぞれについて個別に窓口を用意する必要はなく、一つの窓口で一元的に対応する体制でも問題ないとされています。
むしろ、ハラスメントの種類ごとに窓口が分かれていると、労働者にとって「どこに相談すればよいか分からない」状態になりやすいため、一元化をおすすめします。
一方、パート・有期雇用労働者への待遇差説明窓口は、令和8年10月の法改正により、労働条件通知書に窓口の部署名・担当者名を明記することが求められるようになる点が、他のハラスメント窓口とは異なる注意点です。
障害者職業生活相談員は、後述の「障害者雇用推進者」(努力義務・法定雇用率の対象事業主)とは異なり、障害のある労働者を5人を超えて雇用する事業所ごとに選任が義務付けられる別の制度です。
資格要件があり、資格保有者がいない場合は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が実施する認定講習の受講が必要になる点も、他の担当者とは異なる特徴です。
法律上「努力義務」とされる各種「推進者」等
労働関係法令には、事業主に対して特定の業務を担当する者の選任を求める規定が複数あり、いずれも「〇〇推進者」といった名称で、努力義務(選任しなくても罰則はないが、選任するよう努めることとされているもの)として位置づけられています。
| 名称 | 根拠法 | 対象事業主 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| 障害者雇用推進者 | 障害者雇用促進法 | 法定雇用率の対象となる事業主 | 障害者の雇用促進・継続に向けた施設整備、雇用状況報告、解雇時の届出等に関する業務、国との連絡 |
| 男女雇用機会均等推進者 | 男女雇用機会均等法 | 事業主一般 (規模要件なし) | 職場における男女の均等な機会・待遇の確保のために講ずべき措置の適切かつ有効な実施 |
| 職業家庭両立推進者 | 育児・介護休業法 | 事業主一般 (規模要件なし) | 仕事と育児・介護の両立を図るための雇用管理、職業生活と家庭生活の両立支援に関する業務 |
| 短時間・有期雇用管理者 | パートタイム・有期雇用労働法 | 常時10人以上のパートタイム・有期雇用労働者を雇用する事業所ごと | 雇用管理の改善等に関する事項の検討・実施、パート・有期雇用労働者からの相談対応 |
| 職業能力開発推進者 | 職業能力開発促進法 | 事業主一般 (規模要件なし) | 職業能力開発計画の作成・実施、労働者への相談・指導、国等との連絡 |
| 高年齢者雇用等推進者 | 高年齢者雇用安定法 | 事業主一般 (規模要件なし) | 社内で高齢者が働きやすいように雇用管理や相談対応を行う |
これらの推進者は、いずれも努力義務であり、名称も役割も似通っているため、実務上は人事・総務担当者が複数の推進者を兼務しているケースが多いと想定されます。
選任しなくても罰則はありませんが、労働局の調査等で選任状況を確認されることもあるため、就業規則や社内文書に担当者名や役職名を明記しておくことをおすすめします。
なお、職業能力開発推進者は人材開発支援助成金の一部コースの申請要件、高年齢者雇用等推進者は65歳超雇用推進助成金の支給要件にもなっており、該当する助成金の活用を検討する際は選任状況の確認が必要です。
障害者雇用推進者は令和8年7月時点で常用労働者37.5人以上の事業主が対象です。法定雇用率は数年に一度の見直しが行われ、対象範囲が変動するため注意が必要です。
助成金の要件として求められる担当者
助成金の支給要件として、選任が求められる担当者です。
法律上の義務ではなく、その助成金を申請する場合にのみ必要になる点が共通しています。
| 名称 | 根拠となる制度 | 選任単位 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| キャリアアップ管理者 | キャリアアップ助成金 | 雇用保険適用事業所ごと | 有期契約労働者等のキャリアアップの取組を管理する(事業主や役員自身が兼ねることも可能)。 |
| 外国人労働者雇用労務責任者 | 人材確保等支援助成金 | 外国人労働者が就労する事業所ごと | 外国人労働者との定期面談(計画期間中に最低1回以上)など |
いずれも、その助成金を利用しない場合は選任義務自体が生じません。
複数の助成金を組み合わせて利用する事業主は、事業所ごとに複数の役割を用意する必要がある点にご注意ください。
労働安全衛生法に基づく安全衛生管理体制
事業場の規模・業種に応じて選任・設置が義務付けられる、労働安全衛生法上の管理者・産業医等です。
他の担当者と異なり、事業場の労働者数によって選任義務の有無や人数が変動する点が特徴です。
| 名称 | 選任・設置基準(事業場単位) | 主な役割 |
|---|---|---|
| 衛生管理者 | 全業種で常時50人以上 (規模に応じ複数名) | 衛生に関する技術的事項の管理 |
| 産業医 | 全業種で常時50人以上 | 労働者の健康管理、職場巡視、長時間労働者の面接指導等 |
| 安全管理者 | 建設業・製造業等の指定業種で常時50人以上 | 安全に関する技術的事項の管理 |
| 総括安全衛生管理者 | 業種により常時100人・300人・1,000人以上 | 安全管理者・衛生管理者等を指揮し、事業場の安全衛生管理を統括 |
| 衛生推進者・安全衛生推進者 | 常時10人以上50人未満 (業種により名称が異なる) | 安全衛生に係る業務のとりまとめ |
| 安全委員会・衛生委員会 | 業種により常時50人・100人以上 | 労働者の危険防止・健康障害防止に関する調査審議 |
| ストレスチェック実施者 | 常時50人以上 ※50人未満は努力義務。 | ストレスチェックの実施、結果の通知、高ストレス者への医師による面接指導の勧奨 |
これらは、努力義務や助成金要件の推進者と異なり、要件に該当すれば必ず選任・設置しなければならない義務であり、未選任の場合は是正勧告や罰則の対象になり得ます。
従業員数が増減するタイミング(特に50人前後)で見直し漏れが起きやすいため、定期的な確認をおすすめします。
なお、ストレスチェックは令和10年(2028年)4月1日から、50人未満の事業場にも義務化される予定(令和7年5月公布の改正労働安全衛生法による)です。
(参考)36協定の過半数代表者について
「36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)」を締結する際の「過半数代表者」も、実務でよく話題になる存在ですが、ここまでの担当者・推進者とは性質が異なります。
役職として継続的に選任しておくものではなく、36協定を締結するたびに、その都度、労働者の過半数から民主的な手続き(投票・挙手等)によって選出する必要がある代表者です。
- 労働基準法第41条第2号の管理監督者は過半数代表者になれません
- 会社側が特定の労働者を指名したり、親睦会の幹事等がそのまま自動的に選出されたりする方法は認められていません
すでに社内の「窓口・担当者」を整理する機会に、36協定の締結手続きが適正に行われているかもあわせてご確認いただくことをおすすめします。
兼任は可能か
いずれの担当者・窓口・推進者も、法律上「特定の役職者でなければならない」という制限は基本的にありません(障害者職業生活相談員のように資格要件があるものを除きます)。
実務上は、次のような整理で対応している事業所が多く見られます。
- 小規模な事業所:事業主自身、または総務・人事を兼任する担当者が、努力義務の推進者や相談窓口の役割をまとめて担う
- 一定規模以上の事業所:人事・総務部門の担当者が窓口機能を担い、現場対応は各部署の管理者が担う(複数窓口の使い分けについては、カスタマーハラスメント対策義務化|事業主が講じるべき措置でもご紹介しています)
ただし、キャリアアップ管理者のように「事業所ごとに1名」「複数事業所の兼務不可」といった個別の制約が助成金側で定められているものや、障害者職業生活相談員のように資格要件・届出義務があるものもあるため、複数の制度を同時に利用する場合は、それぞれの要件を個別に確認する必要があります。
まとめ:まずは自社の担当者・窓口の一覧化から
制度ごとにバラバラに登場する担当者・窓口・推進者も、根拠別に整理すると、次の3種類に大別できます。
- 法律上の義務として求められるもの(相談窓口、障害者職業生活相談員、労働安全衛生法上の管理者等、規模に応じて選任義務が発生するものを含む)
- 法律上の努力義務として求められるもの(各種「推進者」、規模要件がないものも多い)
- 助成金の要件として必要なもの(利用する助成金がある場合のみ)
まずは、自社が現在利用している(または利用を検討している)助成金、自社の従業員数・障害者雇用の状況、対応が必要な法改正を洗い出し、どの担当者・窓口・推進者が必要になるかを一覧化しておくことをおすすめします。
「自社にどの担当者・窓口が必要か整理したい」「兼任の可否を確認したい」といったご相談は、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の公表資料に基づく情報です。制度の詳細・要件は随時見直されることがあります。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。



