助成金と聞くと、「手続きが大変そう」「うちは対象にならないのでは」と感じる事業主の方も多いと思います。
一方で、助成金には、お金を受け取る以外にも、会社の労務管理を見直すきっかけになるという側面があります。
この記事では、助成金のメリットと注意点を、次の順で整理します。
- 前提:助成金とは何か
- 会社と従業員にとってのメリット
- 労務リスクへの備え
- 活用するときのポイント(注意点と進め方)
なお、支給額や要件は、年度やコースによって変わります。
具体的な内容は、「おすすめ助成金15選」の記事や、各コースの記事でご確認ください。
助成金とは|返済不要だが「取組が先」
助成金は、国(厚生労働省)が、雇用の安定や働きやすい職場づくりに取り組む事業主に支給するものです。
融資とは異なり、返済は不要です。
キャリアアップ助成金や両立支援等助成金などの「雇用関係助成金」は、雇用保険のうち「雇用保険二事業」の保険料を財源としています(雇用保険法第62条・第63条)。
この保険料は、事業主のみが負担しています。
つまり、事業主が納めた雇用保険料の一部が、助成金として事業主に還元される仕組みです。
ここで押さえておきたいのは、助成金は「お金をもらってから、自由に使うもの」ではないという点です。
要件となる取組を実施した事業主に支給されるものです。
例えば、次のような取組があります。
- 就業規則や賃金規程などの制度を整える
- 賃金を引き上げる
- 育児や介護との両立を支える休暇制度を設ける
多くのコースでは、取組を始める前に計画を提出する必要があります。
取組が先で、支給は後、という順序になります。
一般に、助成金は、要件を満たして申請すれば支給の対象になります。
公募や審査で採択される数が限られる補助金とは、この点が異なります。
ただし、業務改善助成金や働き方改革推進支援助成金のように、交付申請の受付期限が設けられているものもあります。
申請の準備で、労務管理が整う
助成金の申請では、労務関係の書類の提出が求められます。
コースによって異なりますが、例えば次のような書類です。
- 雇用契約書または労働条件通知書
- 賃金台帳
- 出勤簿(タイムカード)
- 就業規則
これらの書類は、助成金のためだけに作るものではありません。
労働基準法で、作成や保存が求められているものも含まれています。
- 労働条件の明示(労働基準法第15条)
- 賃金台帳の作成(同法第108条)と、記録の保存(同法第109条。当分の間は3年)
- 就業規則の作成・届出(同法第89条。常時10人以上の事業場)
申請の準備を進めると、こうした書類が整っているかを確認することになります。
助成金の申請は、日頃の労務管理を見直す機会になります。
また、雇用関係助成金には、共通の支給要件があります。
厚生労働省の雇用関係助成金の共通要領では、例えば次のような点を事業主が確認することになっています。
- 不正受給による不支給や取消しから、5年を経過していること
- 支給申請日の属する年度の前年度より前の労働保険料に、未納がないこと
- 支給申請日の前日から過去1年に、労働関係法令違反で送検されていないこと
就業規則の整備については、「就業規則作成のススメ」や、「従業員10人未満でも就業規則は作るべき?」もご覧ください。
経済的なメリット|費用の一部を補える
助成金のメリットは、返済が不要で、取組にかかる費用の一部を補えることです。
コースによっては、次のような取組の負担を軽くする効果が期待できます。
- 制度の導入や見直しにかかる費用
- 設備やシステムの導入にかかる費用
- 賃金の引上げ
業務改善助成金は設備投資と賃金引上げを、キャリアアップ助成金は非正規雇用の方の待遇改善などを、それぞれ支援しています。
ただし、支給額は、コースによって定額のものや、費用の一定割合のものがあります。
かかった費用の全額が戻るとは限りません。
具体的な金額や要件は、年度ごとに変わります。
最新の内容は、各コースの記事や、厚生労働省・労働局の案内でご確認ください。
従業員にとってのメリット|働きやすさと定着
助成金の多くは、働く人の待遇や職場環境の改善を要件としています。
そのため、助成金の活用は、従業員にとってのメリットにもつながります。
| 従業員にとってのメリット | 関連する助成金の例 |
|---|---|
| 待遇の改善 (賃金・賞与・退職金など) | キャリアアップ助成金 |
| 賃金の引上げと、業務の効率化 | 業務改善助成金 |
| 仕事と家庭の両立 (育児・介護・不妊治療など) | 両立支援等助成金 |
| 長時間労働の削減と、休暇の取りやすさ (労働時間の短縮・休暇の取得推進・勤務間インターバル) | 働き方改革推進支援助成金 |
| 高年齢の方が働き続けやすい環境 | 65歳超雇用推進助成金 |
| 長く働ける魅力ある職場 (雇用管理制度・テレワーク・外国人の方の就労環境など) | 人材確保等支援助成金 |
研修などの人材育成を支援するコースもあります。
こうした取組は、従業員の定着にもつながる可能性があります。
令和7年転職者実態調査では、転職者が前の会社を辞めた理由の上位に、賃金、会社の将来への不安、仕事内容が挙がっていました。
詳しくは、「転職者を受け入れる事業所は4割に」の記事をご覧ください。
従業員が長く働き続けてくれることは、採用や育成の負担を抑えることにもつながります。
助成金を活用した職場づくりは、会社と従業員の双方にとってメリットになり得ます。
労務リスクへの備えにつながる
労務管理が整っていることは、労務リスクへの備えにもなります。
労働基準監督年報の令和6年(2024年)の数値を見ると、定期監督等を行った14万2,477事業場のうち、9万9,906事業場(70.1%)で、労働基準法や労働安全衛生法などの違反が認められました。
定期監督等とは、労働基準監督署が、定期的に、または労働災害の発生などを契機に、事業場に立ち入って調査するものです。
あわせて「疑わしい事業場の4割弱で違法残業」もご覧ください。
なお、賃金の請求権の時効は、当分の間3年です(労働基準法第115条、附則第143条第3項)。
未払いの賃金があれば、従業員から過去3年分を請求される可能性があります。
助成金の申請では、コースによって、賃金台帳や出勤簿などを確認されます。
賃金台帳や出勤簿を日頃から整えておくことは、こうしたリスクへの備えにもなります。
ただし、助成金の審査を通ったことは、労務管理が法令に適合していることを保証するものではありません。
監督署の調査で指摘を受けないことを約束するものでもありません。
あくまで、労務管理を見直すきっかけの一つ、という位置づけです。
活用する前に知っておきたい注意点
助成金には、メリットだけでなく、事前に知っておきたい注意点もあります。
- 受け取った助成金は、課税対象になるのが一般的です。 法人では収益(益金)として、個人事業主では事業所得などとして扱われます。税務の取扱いは、税理士にご確認ください(国税庁 第7款 その他の収益等 2-1-42)。
- 取組を始める前に、計画の提出が必要なコースが多くあります。 取組を始めてしまった後では、申請できないことがあります。取組の前に、要件を確認してください。
- 支給までに、一定の期間がかかります。 申請書類の審査があるため、すぐに受け取れるとは限りません。また、申請に必要な書類は、日頃から整えて保管しておく必要があります。
- 不正受給には、厳しい措置があります。 助成金の返還に加え、不正受給額の2割相当の違約金、事業主名の公表、5年間助成金を受けられなくなるなどの措置があります。申請を専門家に任せた場合でも、関与した者の不正は、事業主の不正受給にあたります。
- 制度は、年度ごとに変わります。 支給額や要件の改正が、年度の途中で行われることもあります。最新の内容は、厚生労働省や労働局でご確認ください。
- 報酬を得て申請の代行ができるのは、社会保険労務士です。 他人の求めに応じて報酬を得て、助成金の申請書類の作成や提出代行を業として行えるのは、社会保険労務士(社会保険労務士法人)に限られます(社会保険労務士法第27条。弁護士などの例外を除く)。無資格者が不正に関与した場合は、不支給などの対象になることがあります。
活用を考えるときの進め方
助成金の活用を考えるときは、次の順で進めると整理しやすくなります。
- 自社の状況を確認する。 雇用保険の適用事業所であること、労働保険料に未納がないこと、就業規則や賃金台帳などが整っているかを確認します。
- 取り組みたいテーマを決める。 賃金の見直し、育児・介護との両立、高年齢者の雇用、定着の改善など、自社の課題から考えます。「おすすめ助成金15選」の記事で、該当するコースを探せます。
- 取組を始める前に、要件を確認する。 計画の提出が必要か、申請の期限はいつかを確認します。判断に迷う場合は、社会保険労務士や労働局にご相談ください。
まとめ
- 助成金は返済不要ですが、要件となる取組を実施した事業主に支給されるものです。取組が先になります。
- 申請の準備を通じて、就業規則や賃金台帳など、労務管理の見直しにつながります。
- 助成金の多くは、従業員の待遇や職場環境の改善が要件です。従業員の定着にもつながる可能性があります。
- 助成金の審査を通ることは、労務管理が適法であることの保証ではありません。
- 課税、事前の計画提出、不正受給、制度の年度改正などの注意点を、事前に押さえておきましょう。
助成金の申請のご依頼は、「助成金申請サポート」のページで、対応内容と報酬の目安をご紹介しています。
自社が対象になるか知りたいといったご相談も、お気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年10月)の公表資料に基づく情報です。制度の詳細は今後の法改正等により変更される可能性があります。


