疑わしい事業場の4割弱で違法残業|長時間労働の監督指導結果を読み解く

疑わしい事業場の4割弱で違法残業|長時間労働の監督指導結果を読み解く 行政発表・統計

令和8年9月15日、厚生労働省が「長時間労働が疑われる事業場に対する令和7年度の監督指導結果」を公表しました。
令和7年4月から令和8年3月にかけて監督指導を実施した29,150事業場のうち、38.5%にあたる11,228事業場で、違法な時間外労働が確認されたという内容です。

「4割弱で違法な残業」という数字をどう読むか

この数字だけを見ると、「そんなに多くの会社が違法残業をしているのか」と驚かれるかもしれません。
ですが、この数字を正しく読むには、押さえておきたい前提が2つあります。

そもそも、無作為に選ばれた事業場ではありません

今回の監督指導は、日本中の会社をくじ引きで選んで実施したものではありません。
発表資料には、対象の選び方がこう記載されています。

「各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等」

つまり、労働者からの申告や情報提供、過労死等の労災請求といった、あらかじめ「疑わしい」とみなされた事業場に絞って実施された監督指導です。

2つ目は、日本全国の事業所数は約506万事業所(令和6年、7年経済センサス‐基礎調査 調査の結果)です。
今回監督指導が入った29,150事業場は、その約0.6%にすぎません。

つまり、「38.5%が違法残業」という数字は、「日本企業の4割弱が違法残業をしている」という意味ではなく、「疑わしいと目星をつけた事業場のうち、4割弱で実際に違法な時間外労働が確認された」と読むのが正確です。
また年間約3万の事業所に監督指導がはいっているという点も見逃せません。

なお、同じ発表には、違法な時間外労働に限らない、より広い括りの「労働基準関係法令違反」(36協定の未締結、就業規則の不備なども含む)の数字もあり、こちらは22,882事業場・78.5%にのぼります。
疑わしいと見て監督に入ったところ、8割近くで何らかの法令違反が見つかった、というのが実態です。

36協定の上限を思い出しておく

今回の数字の深刻さを理解するために、時間外労働の上限規制を先に確認しておきます。
労働基準法36条に基づく36協定の時間外労働は、原則として月45時間・年360時間が上限です。
臨時的な特別の事情がある場合の特別条項付き36協定であっても、次の上限を超えることはできません。

  • 時間外労働は年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計が2〜6か月平均で80時間以内
  • 月45時間を超えることができるのは年6か月まで

この「単月100時間未満」「複数月平均80時間以内」は、特別条項があっても超えることが許されない、いわば最後の一線です。この前提で、今回の内訳を見てみます。

疑わしい事業場の中の内訳

29,150事業場のうち違法な時間外労働が確認された11,228事業場(38.5%)について、実際の時間外・休日労働の長さの内訳は次のとおりです。
※割合は違法な時間外労働が確認された11,228事業場を基準としたものです。

区分事業場数割合
月80時間超4,991事業場44.5%
月100時間超2,842事業場25.3%
月150時間超554事業場4.9%
月200時間超111事業場1.0%

原則の月45時間を大きく超えるのはもちろん、特別条項があっても超えられないはずの「単月100時間未満」のラインを、2,842事業場が超えていました。
月200時間を超える事業場が111あったという事実は、原則の月45時間の4倍以上にあたり、率直に重い数字だと感じます。

このほか、賃金不払残業が確認された事業場は1,901事業場(6.5%)、過重労働による健康障害を防止するための措置(医師の面接指導等)が未実施だった事業場は5,919事業場(20.3%)でした。

月100時間・月200時間は、実際どんな働き方になるか

数字だけでは実感が湧きにくいので、1日あたりに置き換えてみます。
月100時間・月200時間という規模になると、週休2日(平日のみ勤務)で積み上げるのは現実的ではないため、ここでは土曜日も出勤する前提で計算します。
なお、所定労働時間は9時から18時の8時間/日×5日=40時間/週としています(休憩1時間)。
また20日/月を出勤日としています。

月に100時間残業の勤務イメージ

  • 平日(月〜金): 毎日約4時間の残業✕20日
  • 休日(土): 月2回出勤(朝からフルタイム勤務)
曜日出勤時間退勤時間勤務(実働)時間残業時間
月〜金9:0022:1212.2時間(休憩1h)4.2時間/日
土(隔週)9:0018:008時間(休憩1h)8時間(休日出勤)
日終日休み–––

月に200時間残業の勤務イメージ

  • 平日(月〜金): 毎日約7時間の残業✕20日
  • 休日(土): 毎週出勤(平日並みの長時間労働)×5日
曜日出勤時間退勤時間勤務(実働)時間残業時間
月〜金9:0025:00(深夜1:00)15時間(休憩1h)7時間/日
土(毎週)9:0022:0012時間(休憩1h)12時間(休日出勤)
日終日休み–––

月100時間の残業は、土曜日も出勤したとして始業9時・休憩1時間を挟んで退勤が22時前後になる計算です。
月200時間になると1日あたり7時間の残業となり、退勤は翌日1時前後、実労働時間だけで1日15時間にのぼります。翌日も9時始業だとすると、退勤から次の始業までは7時間程度しかなく、通勤や食事の時間を差し引くと、睡眠に充てられる時間はかなり限られてしまいます。

厚生労働省の労災認定基準(脳・心臓疾患)では、発症前1か月間におおむね100時間、または発症前2か月間から6か月間にわたって1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働があると、業務と発症との関連性が強いと評価されるとされています。
今回の監督指導結果で確認された月100時間超・月200時間超という水準は、まさにこの基準に該当する、あるいはそれを大きく上回る働き方だったことになります。

あくまで一つの目安として、数字の重みを実感していただければと思います。

社労士として、日頃感じていること

個別の相談内容に立ち入ることはできませんが、一般論として、長時間労働のパターンがいくつかあります。

  • 36協定は締結しているものの、特別条項の発動要件や上限時間が形骸化しており、実質的に「毎月が特別条項」になっている
  • 労働時間の把握が自己申告に頼っており、実際の始業・終業時刻と記録がずれている
  • 繁忙期の残業が慢性化し、「今年だけ」のはずが常態化している

こうした状態は、いずれも今回の監督指導の対象になり得る「情報」(労働者からの申告等)につながりやすい要因だと考えています。
逆にいえば、日頃から36協定の実態と記録の管理を見直しておくことが、監督指導の対象になるリスクを下げることにもつながるのではないでしょうか。

厚生労働省は、11月を「過重労働解消キャンペーン」期間として、重点的な監督指導を実施する予定であることを明らかにしています。
今回のように、労働者からの申告や情報提供が監督のきっかけになる以上、この時期に限らず、日頃からの備えが重要になります。

今、確認しておきたいこと

本格的なチェックリストというほどではありませんが、今回の数字を踏まえて、次のあたりは確認しておいて損はないと思います。

  • 自社の36協定は、特別条項の発動要件・上限時間を含めて、実態と合っているか
  • 労働時間の記録は、タイムカードやPCログ等の客観的な記録に基づいているか(自己申告だけになっていないか)
  • 月80時間・100時間を超える労働者がいた場合、医師の面接指導の対象になっていることを把握できているか

まとめ

「38.5%が違法残業」という数字は、インパクトはあるものの、そのまま「日本企業の実態」として受け取ると誤解を招きかねません。
この監督指導が、あらかじめ疑わしいとみなされた事業場を対象にしたものだという前提を踏まえると、むしろ「疑わしいところは、実際に高い確率で違法な状態にあった」という、監督の実効性を示す数字として読むほうが実態に近いと感じています。

とはいえ、36協定の形骸化や労働時間管理の甘さは、規模の大小を問わず起こり得るものです。この機会に、自社の残業の実態と36協定の内容が合っているかを確認してみてはいかがでしょうか。

本記事は執筆時点(令和8年度)の公表資料に基づく情報です。制度の詳細・運用は今後の通達等により変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。