シリーズ「育児休業と社会保険の手続き」では、妊娠の報告から職場復帰までを3つのライフステージに分けて、会社がする手続きと本人が受け取れる給付を整理してきました。
「産前産後休業編」「育児休業中編」に続き、最後となる今回は「職場復帰後」を取り上げます。
復帰すれば手続きは終わり、と思われがちですが、実は復帰後にも会社が対応すべき手続きがあります。
特に、時短勤務などで給与が下がった場合の手続きは、本人の保険料や将来の年金にも関わるため、見落とさないようにしたいところです。
妊娠の報告から職場復帰までの流れ
職場復帰後の基本:会社が用意する両立支援の制度
復帰後の従業員が仕事と育児を両立できるよう、育児・介護休業法では、子の年齢に応じて次のような制度を設けることを会社に求めています。
令和7年4月と10月の改正で、対象となる子の年齢の拡大や新しい措置の追加が行われました。
| 制度 | 対象となる子 | ポイント |
|---|---|---|
| 短時間勤務 | 3歳未満 | 1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含む |
| 所定外労働(残業)の制限 | 小学校就学前 | 令和7年4月に「3歳未満」から拡大 |
| 時間外労働の制限 | 小学校就学前 | 月24時間・年150時間まで |
| 深夜業の制限 | 小学校就学前 | 午後10時〜午前5時の労働の制限 |
| 子の看護等休暇 | 小学校3年生修了まで | 令和7年4月に対象拡大。 学級閉鎖や入園式・卒園式なども対象に |
| 柔軟な働き方を実現するための措置 | 3歳〜小学校就学前 | 令和7年10月から。 会社が5つの選択肢から2つ以上を実施 |
- 3歳未満までは労働時間そのものを短く、その後、小学校就学前までは柔軟な働き方を
- 小学校就学前までは労働時間を長くしない
- 小学3年生修了までは休暇を取得しやすくする
そんなイメージを持っていただければよいと思います。
なお、子が3歳になる前の適切な時期に、柔軟な働き方を実現するための措置などを個別に知らせ、本人の意向を確認・聴取することも求められています。
これらの制度の利用を理由に、解雇や降格などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。
会社がする手続き①:標準報酬月額の改定(育児休業等終了時改定)
なぜ改定が必要なのか
復帰後に短時間勤務を選ぶと、多くの場合、給与は休業前より下がります。
ところが、社会保険料の計算に使う標準報酬月額は、休業前の高い金額のままです。
通常の随時改定(月額変更届)は、固定的賃金の変動があり、かつ2等級以上の差が生じないと行えません(「給与計算でよくある間違い」参照)。
時短勤務で給与が下がっても、この要件に当てはまらなければ、次の定時決定まで高い保険料を払い続けることになってしまいます。
そこで設けられているのが、「育児休業等終了時改定」です(健康保険法43条の2、厚生年金保険法23条の2)。
要件と随時改定との違い
| 育児休業等終了時改定 | 随時改定(月額変更届) | |
|---|---|---|
| 対象 | 育児休業等の終了日に3歳未満の子を養育している人 | すべての被保険者 |
| 固定的賃金の変動 | 不要 | 必要 |
| 等級の差 | 1等級以上 | 2等級以上 |
| 算定に使う月 | 育児休業等終了日の翌日が属する月以後3か月 | 変動月以後3か月 |
| 手続きのきっかけ | 本人の申出 | 要件を満たせば会社が届出 |
算定に使う3か月のうち、支払基礎日数が17日未満の月は除きます。
※少なくとも1か月は17日以上であることが必要です(特定適用事業所の短時間労働者は11日)
固定的賃金の変動の要否が随時改定との違いの一つです。
随時改定では残業の増減だけでは改定できませんが、育児休業等終了時改定では、残業の減少による変動も含めて1等級の差から、次の定時決定を待たずに改定できる仕組みになっています。
また本人の申出(同意)を踏まえ、手続きを実施することは注意が必要です。
短期的には手取りが増加しますが(メリット)、万が一の傷病手当金の支給額が下がる(デメリット)があります。
また、次の子の出産時の出産手当金(直近12か月の標準報酬月額の平均で計算される)も下がる可能性があることの留意が必要です。
不必要なトラブルを避けるため、制度をきちんと説明の上、最終判断は本人に委ねることが肝要です。
改定のタイミング
改定後の標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日が属する月から数えて、4か月目から適用されます。
たとえば、3月31日に育児休業を終えて4月1日に復帰した場合、4月・5月・6月に受けた報酬の平均で算定し、7月分の保険料から改定されます。
翌月徴収の会社であれば、実際に控除額が変わるのは8月支給の給与からです。
手続きの方法
本人からの申出を受けて、会社が「育児休業等終了時報酬月額変更届」を日本年金機構へ提出します。本人の申出が前提のため、制度を知らなければ申出の機会を逃してしまいます。
復帰前後の面談などで、会社から案内しておくことをおすすめします。
なお、育児休業を取得せずに、産後休業の終了後すぐに復帰した場合は、同じ仕組みの「産前産後休業終了時改定」を利用できます(健康保険法43条の3、厚生年金保険法23条の3)。
会社がする手続き②:養育期間の標準報酬月額の特例
保険料は下がっても、年金は下げない仕組み
標準報酬月額が下がると保険料の負担は軽くなりますが、厚生年金の額は在職中の標準報酬月額をもとに計算されるため、そのままでは将来の年金額も下がってしまいます。
これを防ぐのが、「養育期間の標準報酬月額の特例」です(厚生年金保険法26条)。
子が3歳になるまでの養育期間中に標準報酬月額が下がった場合、年金額の計算では、養育を始める前の高い標準報酬月額で計算されます。
保険料は下がった後の標準報酬月額で計算されるため、本人にとっては保険料が下がり、年金は下がらないという仕組みです。
手続きの方法
本人の申出に基づき、「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を会社経由で日本年金機構へ提出します。
申出日より前の期間についても、申出日の前月までの2年間はさかのぼって認められます。
この特例は厚生年金保険の制度で、健康保険には関係しません。
また、育児休業を取得したかどうかにかかわらず、3歳未満の子を養育していて標準報酬月額が下がった場合に対象となります。
育児休業を取らなかった男性従業員が、子育てのために残業を減らして標準報酬月額が下がった場合なども対象になり得ます。
育児休業等終了時改定と養育期間の特例は、セットで案内するのがおすすめです。
前者は健康保険・厚生年金の両方の保険料を下げる改定、後者は厚生年金の年金額が下がらないようにする特例、と切り分けると整理しやすくなります。
会社がする手続き③:育児時短就業給付(令和7年4月創設)
時短勤務中の賃金の一部を補う給付
2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている雇用保険の被保険者には、雇用保険から「育児時短就業給付金」が支給されます。
- 受給の要件:育児休業給付の対象となる育児休業から引き続いて時短勤務を始めたこと、または、時短勤務の開始日前2年間に被保険者期間が12か月あること
- 支給額:原則として、時短勤務中に支払われた賃金額の10%相当額(時短勤務開始時の賃金水準を超えないように調整され、支給限度額を超える場合は減額されます)
会社がすること
育児休業給付と同じく、原則として会社がハローワークに手続きを行います。
時短勤務を始めたときの賃金の届出と受給資格の確認を行い、その後は原則として2か月ごとに支給申請します。
育児休業から復帰して時短勤務を始める場合、育児休業給付の手続きが終わった後も、引き続き雇用保険の手続きが続くことになります。
まとめ
職場復帰後のステージで会社がすることは、主に次の3つです。
- 復帰後の両立支援制度(短時間勤務、残業の制限、子の看護等休暇、柔軟な働き方を実現するための措置など)を整え、個別に案内する
- 給与が下がった場合は、本人の申出を受けて「育児休業等終了時報酬月額変更届」と「養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出する
- 2歳未満の子のための時短勤務であれば、育児時短就業給付の手続きを行う
3つのライフステージを通して見ると、妊娠の報告から子が3歳になる頃まで、会社の手続きは数年にわたって続きます。
特に社会保険料の免除や標準報酬月額の改定は、「何月分から」「何月の給与から」という時期の管理が欠かせません。
出産・育児に関する手続きは、発生の頻度が少ない一方で、本人の手取りや将来の年金にも関わる大切な手続きです。
当事務所では、休業前の説明から復帰後の手続きまで一貫してサポートしていますので、お気軽にご相談ください。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の法令・公表資料に基づく情報です。制度の詳細・運用は今後の法改正や通達等により変更される可能性があります。個別の該当性については、事案によって判断が分かれることがありますので、最新情報は厚生労働省・日本年金機構・ハローワーク等の公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。



