就業規則や育児・介護休業規程に次のような一文を記載していませんか⁉
本規程に定めのない事項については、育児・介護休業法その他の法令の定めるところによる。
育児休業や介護休業を取る権利は法律で保障されているので、一見するとこれで十分なように思えます。
実際、この書き方にはメリットもあります。
しかし、育児・介護休業法には、「ここは会社で決めてください」と委ねている部分が複数あります。
その部分は、「法令の定めるところによる」の一文では埋まらず、空白のまま残ってしまいます。
令和7年4月・10月の改正で、会社が決めるべきことはさらに増えました。
今回は、「法令任せで足りる部分」と「会社が自分で決めないと空白になる部分」を切り分けて、規程の見直しのポイントを整理します。
「法令の定めるところによる」で足りる部分
育児休業・介護休業・子の看護等休暇などを取得する権利そのものは、法律で直接保障されています。
要件が法律で細かく定められているため、自社の規程(就業規則など)に書いていなくても、要件を満たす従業員は法律に基づいて取得できます。
また、法律の内容を引用する形にしておけば、法改正で最低基準が引き上げられても、その内容が自動的に適用されます。
改正のたびに規程を書き換えなくても、法律を下回る状態にはなりにくい、という利点があります。
※規程の書き換えは不要でも、改正のたびに運用を変更する必要があります
問題は、ここから先です。
足りない部分①:就業規則に記載が必要な事項
育児休業・介護休業・子の看護等休暇・介護休暇は、労働基準法89条で就業規則に必ず記載すべきとされている「休暇」にあたります。
厚生労働省は、対象となる労働者の範囲、取得に必要な手続き、期間を就業規則に記載する必要があるとしています。
ここで大切なのは、書き方の形式よりも、「従業員が規程を見て、自分が対象になるのか、いつまでに、誰に、どう申し出ればよいのかが分かるか」という点です。
法律の条文を読まなければ分からない状態では、制度があっても使いにくく、申出の遅れやトラブルの原因にもなります。
足りない部分②:休業中・短縮中の賃金と、賞与・昇給・退職金の扱い
育児休業や介護休業の期間中、短時間勤務の期間中に賃金を支払うかどうか、どう計算するかは、法律に定めがありません。
厚生労働省は、これらの賃金に関する事項も就業規則に記載する必要があるとしています。
- 休業期間中の賃金を支払うか(無給とするか)
- 子の看護等休暇・介護休暇を有給とするか無給とするか
- 短時間勤務中の賃金をどう計算するか(始業・終業時間も決めておく)
さらに、賞与や昇給、退職金の算定で、休業期間や短縮した時間をどう扱うかも会社が決める事項です。
休業した期間を「働かなかった期間」として扱うことは差し支えありませんが、それを超えて不利益に扱うことは、不利益取扱いの禁止に触れるおそれがあります。
規程で基準を明確にしておくことが、トラブルの予防にもなります。
足りない部分③:労使協定がないと対象外にできない
育児休業などは、パート・アルバイトを含め、原則として要件を満たす従業員全員が対象です。
一部の従業員を対象から除くことは法律上認められていますが、そのためには労使協定を結ぶ必要があります。
| 制度 | 労使協定で対象から除外できる主な労働者 |
|---|---|
| 育児休業 | ・入社1年未満 ・申出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな人 ・週の所定労働日数が2日以下の人 など |
| 介護休業 | ・入社1年未満 ・申出の日から93日以内に雇用関係が終了することが明らかな人 ・週の所定労働日数が2日以下の人 など |
| 子の看護等休暇・介護休暇 | ・週の所定労働日数が2日以下の人 |
規程に「入社1年未満の者は除く」と書いてあっても、労使協定を結んでいなければ除外はできません。
「法令の定めるところによる」と書いている場合は、なおさら、協定の有無を確認しておく必要があります。
また、令和7年4月から、子の看護等休暇と介護休暇について、「継続雇用期間6か月未満」の労働者を労使協定で除外する仕組みが廃止されました。
以前の協定や規程にこの除外が残っている場合は、見直しが必要です。
このほか、産後パパ育休中に就業させる場合や、業務の性質上、短時間勤務が難しい従業員を短時間勤務の対象から除く場合なども、労使協定が前提になります。
足りない部分④:会社が選ぶ措置
育児・介護休業法には、法律が選択肢を示し、どれを実施するかを会社が選ぶ仕組みがあります。
「法令の定めるところによる」の一文では、会社として何を選んだのかが決まりません。
柔軟な働き方を実現するための措置(令和7年10月〜)
3歳から小学校就学前の子を養育する従業員のために、次の5つの中から2つ以上を選んで実施することが義務付けられました。
- 始業時刻等の変更(フレックスタイム制、時差出勤)
- テレワーク等(月10日以上)
- 保育施設の設置運営等
- 養育両立支援休暇(年10日以上)
- 短時間勤務
選ぶ際には、あらかじめ過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の意見を聴く必要があります。
どれを選んだかを規程に定め、従業員に周知することが求められます。
そのほかの「選ぶ」措置
- 短時間勤務の代替措置:業務の性質上、短時間勤務が難しい従業員を対象から除く場合に、代わりに講じる措置です。令和7年4月から、選択肢にテレワーク等が加わりました。
- 介護のための所定労働時間の短縮等の措置:短時間勤務、フレックスタイム制、時差出勤、介護サービス費用の助成などの中から、会社が選んで講じます。
足りない部分⑤:規程ではなく「運用」が問われる義務
最後に、規程に書いてあるかどうかではなく、実際に行っているかどうかが問われる義務です。
- 個別の周知・意向確認:妊娠・出産の申出があったとき、子が3歳になる前、介護に直面した旨の申出があったときに、制度を個別に知らせ、利用するかどうかの意向を確認する
- 個別の意向聴取・配慮(令和7年10月〜):妊娠・出産の申出があったとき、子が3歳になる前に、上記の周知・意向確認とは別に、勤務時間帯・勤務地・業務量などの希望を個別に聴き、自社の状況に応じて配慮する
- 40歳到達時等の情報提供(令和7年4月〜):介護休業などの制度を、40歳に達する年度(または40歳になった翌日から1年間)に知らせる
- 雇用環境の整備:育児休業・介護休業を取得しやすくするため、研修、相談窓口の設置、事例の提供、方針の周知のいずれかを行う
これらは規程に書いてあっても、実際に行っていなければ義務を果たしたことにはなりません。
誰が、どのタイミングで、どんな資料を使って行うのか、社内の手順を決めておくことが大切です。
セルフチェックリスト
自社の規程と運用を、次の項目で確認してみてください。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| ① 規程の記載 | 対象者の範囲・申出の手続き・期間が、従業員が読んで分かる形で書かれているか |
| ② 賃金の扱い | 休業中・休暇中・短時間勤務中の賃金、賞与・昇給・退職金での扱いが定められているか |
| ③ 労使協定 | 対象外とする労働者を定めている場合、労使協定を結んでいるか。 「6か月未満」の除外が残っていないか |
| ④ 会社の選択 | 柔軟な働き方の措置として何を選んだか、介護のための措置として何を講じるかが決まっているか |
| ⑤ 運用 | 個別の周知・意向確認、意向聴取・配慮、40歳時の情報提供、雇用環境の整備を、誰がいつ行うか決まっているか |
1つでも「いいえ」がある場合は、規程や協定の見直しを検討するタイミングかもしれません。
常時10人未満の事業所の場合
常時10人未満の事業所には、就業規則の作成・届出の義務はありません。
しかし、対象者を除外する場合の③の労使協定、④の措置の選択、⑤の運用上の義務は、事業所の規模にかかわらず必要です。
つまり、「うちは就業規則がないから関係ない」とはいえません。
10人未満の事業所で就業規則を作るメリットについては、別のコラムで取り上げる予定です。
まとめ
「法令の定めるところによる」という一文は、休業の権利そのものについては機能します。
しかし、育児・介護休業法が会社に委ねている部分、つまり規程の記載、賃金の扱い、労使協定、措置の選択、運用の手順は、この一文では決まりません。
特に、令和7年10月から始まった柔軟な働き方の措置は、会社が2つ以上を選ばなければ始まらない制度です。
まだ決めていない場合は、早めの対応が必要です。
なお、両立支援等助成金の多くのコースでは、育児・介護休業に関する制度を就業規則等に定めていることが要件の一つになっています。
助成金の活用を考えている場合も、規程の整備が出発点になります。
当事務所では、育児・介護休業規程の見直しや労使協定の作成、柔軟な働き方の措置の選び方のご相談を承っています。
「うちの規程で足りているか見てほしい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の法令・公表資料に基づく情報です。制度の詳細・運用は今後の法改正や通達等により変更される可能性があります。個別の該当性については、事案によって判断が分かれることがありますので、最新情報は厚生労働省の公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。



