給与計算は、毎月同じ作業を繰り返しているように見えます。
しかし実際には、勤怠の締めから始まり、支給額・控除額の計算、振込、納付まで、いくつもの工程を経て行われています。
そして、それぞれの工程に、法律上のルールに照らして判断が必要な場面があります。
当事務所のコラム「給与計算でよくある間違い」で残業代や社会保険料の計算ミスを、「社会保険料が9月に変わる理由」で標準報酬月額と「〇月分」の考え方を取り上げてきました。
今回は、こうした論点が給与計算の流れの「どこで」起きるのかを、全体像として整理します。
給与計算の月次の流れ(全体像)
給与計算の月次の流れは、大きく次の5つの工程に分けられます。
| 工程 | 内容 | 主な担当者 | 社労士が関われる範囲 |
|---|---|---|---|
| ①勤怠の締め | 労働時間・休日・欠勤等の確定 | 現場の管理者 | 勤怠管理の仕組みづくり・効率化の支援 |
| ②支給額の計算 | 基本給・手当・残業代等の計算 | 給与計算担当者 | 計算のチェック・代行 |
| ③控除額の計算 | 社会保険料・雇用保険料・税金等の控除 | 給与計算担当者 | 計算のチェック・代行 (税務を除く) |
| ④振込・給与明細の交付 | 口座振込、明細の発行 | 経理担当者 | 電子明細の運用支援 |
| ⑤保険料・税金の納付 | 社会保険料・源泉所得税・住民税の納付 | 経理担当者 | ― |
以下、工程ごとに、起きやすいミスとその防ぎ方を見ていきます。
工程①勤怠の締め:すべての計算の出発点
勤怠の締めは、主に現場の管理者が担う業務です。
給与計算担当者がどれだけ正確に計算しても、元になる勤怠データが誤っていれば、その誤りは後の工程すべてに波及します。
法律が求めるのは「客観的な記録」
使用者には、労働者の労働時間の状況を把握する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3)。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、始業・終業時刻の確認・記録は、次のいずれかの方法によることが原則とされています。
- 使用者が自ら現認(目で見て確認)し、記録する
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、記録する
従業員が自分で時刻を書いたり入力したりする「自己申告」は、直行直帰の場合など、客観的な方法で把握することが難しい場合の例外という位置づけです。
自己申告による場合も、申告された時間と実態が合っているかを必要に応じて確認し、ずれがあれば補正するといった措置が求められます。
なお、出勤簿やタイムカード等の記録は、賃金台帳などと同じく保存が必要です(労働基準法109条。保存期間は5年、当分の間は3年)。
現場でありがちな運用とのギャップ
一方、現場では次のような運用も少なくありません。
- 手書きの出勤簿に、従業員が自分で時刻を記入している
- 勤怠システムに従業員が後から時刻を入力し、上司が確認して確定している
- タイムカードの時刻を、15分単位などで切り捨てて集計している
1つ目と2つ目は、実質的には自己申告にあたります。
上司が確認して確定していても、記録そのものが客観的になるわけではありません。
3つ目は、労働時間は1分単位で把握するという原則に反します。
また、タイムカードを使っていても、打刻された時刻がそのまま労働時間になるとは限りません。
業務終了後に私用で残っていた時間を除いたり、打刻前後に働いていた時間を加えたりする補正が必要になることがあります。
ガイドラインのポイント資料でも、タイムカード等の記録を基本としつつ、必要に応じて残業命令書やその報告書などと突き合わせて確認することが示されています。
補正する場合は、その根拠を記録に残しておくことが大切です。
「記録」と「集計」を分けて考える
勤怠管理を見直すときは、「記録(何をもとに時間を把握するか)」と「集計(それをどう計算するか)」を分けて考えると整理しやすくなります。
記録の面で法律の要件を満たすうえで大切なのは、客観的な記録を残すことです。
これは、必ずしもICカードや勤怠アプリを導入しなければ満たせないものではありません。
タイムカードで十分に対応できますし、経営者が毎日現場にいる少人数の事業所であれば、使用者の現認と記録という方法もあります。
集計の面では、タイムカードの時刻を手作業と電卓で集計していると、転記ミスや計算ミスが起こりがちです。
いきなりシステムを導入しなくても、集計をExcelの計算式に置き換えるだけで、こうしたミスは大きく減らせます。
人数が増えた、集計の手間が限界に近い、といったタイミングで、集計機能付きのタイムレコーダーや勤怠アプリを検討する、という段階的な進め方でも問題ありません。
道具が担うこと、人が担うこと
ただし、どの道具を使っても、すべてのミスがなくなるわけではありません。
勤怠管理の道具は、記録を正確にデータ化し、計算を自動化してくれるものです。
一方で、「どのルールで計算するか」という設定と、「この時間は労働時間にあたるか」という判断は、手書き・Excel・勤怠システムのどの方法を選んでも、人が担うことになります。
たとえば、次のような点は、道具の設定や人の判断に左右されます。
- 1日8時間以内でも、週40時間を超えた分は時間外労働になる
- 所定労働時間が8時間未満の会社では、所定を超えても8時間までは法定内の残業となる
- 割増率35%の対象となるのは、法定休日の労働である
- 休憩時間を一律に自動で差し引く設定にしていると、休憩が取れなかった日の労働時間が過少になる
しかも、道具の設定が誤っていると、同じミスが毎月・全員分繰り返されます。
手作業のミスは「その月だけ」「その人だけ」で済むこともありますが、設定のミスは気づかないうちに積み上がっていきます。
デジタル化を進めるほど、最初の設定と定期的な確認が重要になるということです。
工程②支給額の計算:判断が必要な場面が多い工程
勤怠が確定したら、基本給や各種手当、残業代などの支給額を計算します。
この工程で特に判断が必要になるのが残業代です。
- 時間外・休日・深夜の割増率(月60時間を超える時間外労働は50%以上)
- 割増賃金の計算の基礎から除外できる賃金は7種類に限られ、手当の名称ではなく実質で判断すること
- 労働時間は1分単位で計算するのが原則であること
いずれも、給与計算でよくある間違いで詳しく取り上げています。支給額の計算は、勤怠データが正しくても、計算のルールを誤ると未払い賃金につながる工程です。
工程③控除額の計算:「いつの」「どの」金額を使うか
支給額が確定したら、社会保険料・雇用保険料・税金などを控除します。この工程でのポイントは、「いつ時点の」「どの」金額や料率を使うかです。
- 社会保険料(健康保険・厚生年金保険):標準報酬月額に保険料率をかけて計算します。標準報酬月額は毎年9月に切り替わり、法律上は前月分の保険料を控除する「翌月徴収」が原則です。何月の給与から新しい金額を反映させるかは、社会保険料が9月に変わる理由で解説しています。
- 雇用保険料:毎月の賃金の額に雇用保険料率をかけて計算します。料率は年度ごとに改定されることがあるため、年度替わりの反映漏れに注意が必要です。
- 所得税・住民税:源泉所得税や住民税(特別徴収)も給与から控除されます。税額の計算方法など税務の詳細は税理士の業務範囲となるため、本記事では触れませんが、控除漏れや反映漏れがないかの確認は欠かせません。
工程②③を支える「ダブルチェック体制」
工程②③は、判断が必要な場面が多いにもかかわらず、中小企業では担当者が1人で計算から確認までを行っていることが少なくありません。
1人で完結する体制では、思い込みによる誤りに気づくきっかけがなく、同じミスが続いてしまうこともあります。
ミスを防ぐ体制としては、たとえば次のような選択肢があります。
- 社内の別の担当者がチェックする:経営者や別の社員が、計算結果を確認する
- 社労士の顧問契約で計算結果をチェックしてもらう:計算は自社で行い、確認を専門家に任せる
- 給与計算そのものを社労士に依頼する:計算から確認まで外部に任せる
「全部を外注するほどではないが、計算結果が正しいかは見てほしい」という場合は、2の形も選択肢になります。
自社の人員体制や、給与体系の複雑さに合わせて選ぶとよいでしょう。
工程④⑤振込・明細・納付
計算が確定したら、給与の振込と給与明細の交付、そして保険料・税金の納付を行います。
給与は通貨で直接全額を支払うのが原則ですが(労働基準法24条)、労働者の同意があれば口座振込で支払うことができます。
社会保険料は翌月末日までに、源泉所得税・住民税は原則として翌月10日までに納付します。
給与明細は、紙だけでなく電子で交付することもできます。
ただし、あらかじめ従業員に電子交付の方法を示して承諾を得る必要があり、承諾後でも書面での交付を求められた場合は、書面で交付しなければなりません(所得税法231条2項、所得税法施行令356条)。
当事務所では、給与計算業務において「オフィスステーション」をはじめ、各種システムでの電子明細に対応しています。
まとめ
給与計算は、①勤怠の締め、②支給額の計算、③控除額の計算、④振込・明細の交付、⑤納付という流れで行われます。
中でも、すべての出発点となる勤怠の締めと、判断が必要な場面が多い支給額・控除額の計算は、ミスが未払い賃金などのリスクに直結しやすい工程です。
当事務所では、給与計算について次のような関わり方をご用意しています。
- 勤怠管理の見直し・効率化の支援:手書きからタイムカードへの切り替え、Excelでの集計など、手の届く範囲からのデジタル化をお手伝いします
- 顧問契約による計算結果のチェック:自社で計算した結果を、専門家の目で確認します
- 給与計算の代行:計算から確認までをお任せいただけます
「うちの勤怠の付け方は大丈夫だろうか」「計算結果を誰かに見てほしい」といった段階からでも、お気軽にご相談ください。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の法令・公表資料に基づく情報です。制度の詳細・運用は今後の法改正や通達等により変更される可能性があります。個別の該当性については、事案によって判断が分かれることがありますので、最新情報は厚生労働省・日本年金機構・国税庁等の公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。

