人手不足のなか、「頑張ってくれているパート・契約社員を正社員として長く働いてもらいたい」と考える経営者の方は多いのではないでしょうか。
一方で、正社員化には賃金アップや社会保険料の負担増などコストもかかるため、踏み切れずにいるケースも少なくありません。
そんな取り組みを後押しする制度が、キャリアアップ助成金の「正社員化コース」です。
数あるキャリアアップ助成金のコースの中でも最もよく利用されている正社員化コースですが、支給額は「誰を」「どのように」転換するかによって細かく変わるため、「結局自社はいくらもらえるのか」が分かりにくい制度でもあります。
本コラムでは、令和8年度時点の情報として、支給額・対象労働者・対象事業主の要件を整理してご紹介します。
※キャリアアップ助成金には全6コースがあります。各コースの比較はキャリアアップ助成金の全コース一覧をご覧ください。
正社員化コースとは
正社員化コースは、有期雇用労働者・無期雇用労働者・派遣労働者を、正規雇用労働者等へ転換または直接雇用した事業主に対して助成する、キャリアアップ助成金の中核コースです。
「非正規社員を正社員にする」という取り組みそのものを金銭的に後押しする制度、とイメージしていただくとわかりやすいかと思います。
※正社員は、例えば勤務地限定・職務限定・短時間正社員など多様な雇用形態を含みます
対象事業主の要件
【まず確認】今の状態で自己診断できるもの
- 雇用保険適用事業所であり、キャリアアップ管理者を配置していること
※社会保険の適用事業所の場合は社会保険の加入も必須です - 雇用契約書(労働条件通知書)、出勤簿、賃金台帳が作成できていること
【計画前】転換を実施する前に整えておくもの
- 正社員転換制度を規定した就業規則等が正社員転換の6か月前に整備されていること
(区分の違いが明記されている必要があります)
特に「正社員」として認められるためには、昇給または賞与、退職金制度に関する規定が必要です。
就業規則が未整備の場合は、正社員化コースの申請と合わせて規則の整備が必要になる点にご注意ください。
【申請前・転換後】転換後に確定するもの
- 転換後6か月間の賃金が、転換前6か月と比べて3%以上増額されていること
- 助成金の支給申請日の前日から6か月以内に会社都合退職がないこと
対象労働者の要件
正社員化コースの対象となるには、次の要件を満たす必要があります。
- 転換前、賃金額または計算方法が正規雇用と異なる雇用区分で、通算6か月以上雇用されていること
- 転換予定であらかじめ採用された者でないこと
- 過去3年以内に同一事業主のもとで正規雇用されていたことがないこと
- 事業主(役員含む)の3親等以内の親族でないこと
- 転換後も継続して雇用されていること(定年間際の場合、1年以上要)
※新規学卒者を雇入れから1年未満で正社員転換した場合はNGです
転換パターン別の支給額
支給額は、転換前のA.雇用形態(有期雇用or無期雇用)、B.「重点支援対象者」の該当有無によって決まります。
A.有期雇用労働者を正規雇用労働者へ転換した場合
| 中小企業 | 大企業 | |
|---|---|---|
| 重点支援対象者 | 80万円(40万円×2期) | 60万円(30万円×2期) |
| 上記以外 | 40万円(40万円×1期) | 30万円(30万円×1期) |
B.無期雇用労働者を正規雇用労働者へ転換した場合
| 中小企業 | 大企業 | |
|---|---|---|
| 重点支援対象者 | 40万円(20万円×2期) | 30万円(15万円×2期) |
| 上記以外 | 20万円(20万円×1期) | 15万円(15万円×1期) |
※派遣労働者を直接雇用する場合も、有期・無期それぞれ同じ支給額体系を適用
※支給額・区分は年度改定の対象になりやすい部分ですので、実際に申請を検討される際は、厚生労働省の最新パンフレットで金額をあらためてご確認ください。
「重点支援対象者」は支給額を左右する重要ポイント
「重点支援対象者」に該当すると支給額が2倍になります(中小企業・有期雇用からの転換の場合、40万円と80万円)。この判定が、正社員化コースを活用するうえで最も実務的に重要なポイントです。
重点支援対象者に該当するのは、次のいずれかに当てはまる方です。
- 雇入れから3年以上経過した有期雇用労働者
※雇用期間が5年を超えると無期雇用労働者扱いとなり、支給額の区分が変わります。 - 雇用から3年未満で、(1)過去5年間に正規雇用であった期間が1年以下、かつ(2)過去1年間に正規雇用されていない有期雇用労働者
- 派遣労働者、母子家庭の母等、特定訓練修了者
加算措置(令和8年度、3種類)
正社員化コースには、基本額に上乗せできる加算措置が用意されています。
| 中小企業 | 大企業 | |
|---|---|---|
| 正社員転換制度を新たに規定し、転換を実施 | 20万円 | 15万円 |
| 多様な正社員制度を新たに規定し、転換を実施 | 40万円 | 30万円 |
| 正社員転換に関わる情報をサイトに公表(情報公表加算) | 20万円 | 15万円 |
いずれも事業所当たり1回のみの加算とされています。
情報公表加算は、令和8年度に創設されました。
申請から支給までの流れ
- 転換前準備①:就業規則等の整備、キャリアアップ計画の作成・提出
- 転換前準備②:対象者選定・就業規則等への正社員転換制度の規定
- 正社員転換:対象労働者の転換を実施(雇用契約締結、賃金改定など)
- 転換後6か月分:雇用継続・賃金支払い
- 申請(第1期):支給申請書類作成・申請(賃金支払日の翌日から2か月以内)
- 労働局・ハローワークによる審査・支給決定
- 申請(第2期):支給申請書類作成・申請(第1期の6か月後2か月以内)
ポイントは、キャリアアップ計画の提出より前に転換を実施してしまうと、対象外になります。
「先に転換してしまってから制度を知った」という方も少なくないため、転換を検討し始めた段階で早めにご相談いただくことをおすすめします。
よくある質問
Q. 非正規雇用労働者を対象とした処遇改善として認められるための目安の額は?
あくまでも例示になりますが、
・昇給:なし→あり(毎年昇給) ※降級NGではなく、客観的な基準の規定が肝要
・賞与:なし→あり(10万/年程度)
・退職金:なし→あり(3,000円/月程度)
を参考にしてください。企業規模や職種、地域の賃金水準等を勘案した、通常の正規雇用労働者の労働条件として妥当な額とする必要があります。
Q. 労働者が10人未満の事業所で、本来は就業規則の作成義務はないが、就業規則を作成し、必要な規定を整備しなければならないか?
企業規模に係わらず就業規則又は労働協約を作成する必要があります。必要な規定を整備した上で労働者に明示し、その規定に基づいて取組を実施する必要があります。
Q. 計画書の提出日と正社員の転換日は近接しても良いか?
例えば3月31日に計画書を提出し、4月1日から計画期間を開始(正社員転換)することは制度上は可能です。ただし、労働局から制度の周知に関する確認の連絡があることもあるため、2週間程度の余裕を持たせることを推奨します。
まとめ:転換を実施する前のご相談がおすすめです
正社員化コースは、非正規社員の定着を後押ししてくれる心強い制度ですが、支給額は「重点支援対象者に該当するか」「どの加算が使えるか」によって大きく変わります。また、キャリアアップ計画の提出タイミングを誤ると、そもそも対象外になってしまうという落とし穴もあります。
「この従業員は重点支援対象者に該当するのか」「うちの会社はいくらもらえるのか」といったご相談は、転換を実施する前に、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の公表資料に基づく情報です。助成金の要件・支給額等は、年度改定に限らず随時見直されることがあります。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。




