最低賃金の引き上げが毎年のように続くなか、「賃上げはしたいが、原資に不安がある」「設備投資と賃上げを同時に進める余裕がない」と感じている中小企業・小規模事業者の経営者の方は少なくないのではないでしょうか。
そんな事業者を支援する制度のひとつが「業務改善助成金」です。事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げたうえで、生産性向上につながる設備投資等を行うと、その費用の一部について国から助成を受けられます。
本コラムでは、令和8年度(2026年度)時点の制度内容を、厚生労働省の公表資料をもとに整理してご紹介します。
※ほかの助成金もあわせて検討したい場合はおすすめ助成金をご覧ください。
業務改善助成金とは
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げた(※)うえで、生産性向上に資する設備投資等を行った中小企業・小規模事業者に対し、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。
※雇入れ後、6か月を経過した労働者の事業場内最低賃金を引き上げる必要があります。
助成額は引き上げる賃金額や対象労働者数に応じて変動し、要件を満たす場合には最大600万円となります。賃上げと生産性向上をセットで後押しする制度、とイメージしていただくとわかりやすいかと思います。
対象となる事業者の3つの要件
業務改善助成金を利用するためには、大きく分けて次の3つの要件を満たす必要があります。
1. 中小企業・小規模事業者であること
大企業やその関連会社等は対象外です。業種ごとの資本金・従業員数の基準は、助成金でよく出てくる「中小企業事業主」とは?を確認ください。
2. 事業場内最低賃金が、令和8年度の地域別最低賃金額を下回っていること
現時点で地域別最低賃金を大きく上回る賃金を支払っている事業場は、対象外の可能性が高いです。
※京都府の令和8年度地域別最低賃金額は1,180円(11/16(月)適用)予定です。
3. 解雇や賃金引き下げなど、不交付事由に該当しないこと
助成率とコース内容
助成率は、事業場内最低賃金の水準によって次のように区分されています。
※京都府は令和7年度の地域別最低賃金が1,122円(1,050円以上)のため、助成率は3/4です。
| 事業場内最低賃金 | 助成率 |
|---|---|
| 1,050円未満 | 4/5 |
| 1,050円以上 | 3/4 |
コースは、賃金の引き上げ額に応じて50円コース・70円コース・90円コースの3種類です。
助成上限額は事業場規模30人未満の事業者とそれ以外の事業者の2パターンがあります。
※太字は事業場規模により上限額が異なるコースです
■事業場規模30人未満の事業者の上限額
| コース | 対象労働者 1人 | 対象労働者 2〜3人 | 対象労働者 4〜5人 | 対象労働者 6〜7人 | 対象労働者 8人以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 50円コース | 40万円 | 70万円 | 70万円 | 90万円 | 110万円 |
| 70円コース | 50万円 | 100万円 | 130万円 | 180万円 | 230万円 |
| 90円コース | 100万円 | 240万円 | 270万円 | 360万円 | 450万円 |
■事業場規模30人以上の事業者の上限額
| コース | 対象労働者 1人 | 対象労働者 2〜3人 | 対象労働者 4〜5人 | 対象労働者 6〜7人 | 対象労働者 8人以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 50円コース | 30万円 | 40万円 | 70万円 | 90万円 | 110万円 |
| 70円コース | 40万円 | 50万円 | 130万円 | 180万円 | 230万円 |
| 90円コース | 90万円 | 150万円 | 270万円 | 360万円 | 450万円 |
事業場内最低賃金が1,050円未満であるなど一定の要件(特例事業者要件)を満たし、10人以上の労働者の賃金を90円以上引き上げる場合には、最大600万円まで助成される区分もあります。
令和8年度からの変更点として、助成の対象労働者は雇用保険被保険者に限定されている点はご注意ください。
対象になる経費・ならない経費
助成対象となる経費の例としては、次のようなものが挙げられます。
- POSレジなどの機器導入(在庫管理時間の短縮)
- リフト付き特殊車両などの導入(送迎時間の短縮)
- 経営コンサルティングの活用(業務フロー見直しによる回転率向上)
- 顧客管理のシステム化(営業力の強化) など
また、物価高騰等要件に該当する事業者は、PCやスマホ、タブレット等の端末と周辺機器の新規導入も対象です。
令和8年度からの変更点として、自動車(特殊用途車両を除く)は対象経費から除外されています。
※通常の自動車は対象外となりました。
申請から支給までの流れ
業務改善助成金は、おおむね次の5つのステップで進みます。
- 交付申請 事業所を管轄する都道府県労働局へ必要書類を提出(電子申請可)
- 交付決定 労働局による審査を経て、交付の可否が通知(3ヶ月ぐらい必要)
- 事業の実施 交付決定後に、賃金の引き上げと設備導入等を行い、代金を支払い
- 事業実績報告 事業実施後、報告書と支給申請書を労働局へ提出
- 助成金の支払い 審査のうえ、助成金の交付額確定&支払い
ポイントは、原則として交付決定を受ける前に設備等を購入・契約してしまうと、助成の対象外となります(納品日ではなく発注行為も交付決定後に実施する)。
また賃金引き上げは交付決定から令和8年度地域別最低賃金の適用(11/16(月)予定)の前日までです。
※郵送提出も可能ですが、提出日が確定でき、電子申請or窓口申請を推奨
令和8年度のスケジュール
令和8年度については、次のようなスケジュールが示されています。
- 交付申請の開始:令和8年9月1日
- 交付申請の期限:令和8年11月15日23時59分(電子申請の場合)
※窓口、郵送は11月13日17時15分提出分(消印有効ではない) - 事業完了の期限:令和9年1月31日まで
※交付申請後、交付決定まで3ヶ月ほどかかるため、間に合わない場合の特例措置あり
令和8年度からの主な変更点
- 助成対象となる労働者が雇用保険被保険者に限定
- 自動車(特殊用途車両を除く)が対象経費から除外
制度は年度ごとに見直されることが多いため、過去に申請したことがある事業者の方も、最新の要件を都度確認することをおすすめします。
よくある質問
Q. 個人事業主でも申請できますか?
中小企業・小規模事業者の要件を満たせば、個人事業主も対象となり得ます。ただし業種ごとの規模要件への該当を個別に確認する必要があります。
Q. 賃上げ後に業績が悪化した場合はどうなりますか?
交付決定後の事情変更については個別の判断となるため、状況が生じた場合は速やかに管轄の労働局や社労士へご相談いただくのが安心です。
Q. 交付決定前に設備を購入してしまった場合は?
原則として、交付決定前に発注・契約・支払いを行った経費は助成の対象外とされています。設備投資を検討される際は、契約前の段階でご相談ください。
まとめ:まずはご相談ください
業務改善助成金は、最低賃金の引き上げに直面する中小企業にとって心強い制度ですが、コースの選び方や交付決定前の注意点など、実務上気をつけたいポイントも少なくありません。
「うちの会社は対象になるのか」「どのコースを選べばよいか」といったご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の公表資料に基づく情報です。助成金の要件・支給額等は、年度改定に限らず随時見直されることがあります。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。




