精神障害の労災認定が7年連続で過去最多|過労死等防止対策白書から読む、職場の対人関係への備え

精神障害の労災認定が7年連続で過去最多|過労死等防止対策白書から読む、職場の対人関係への備え 行政発表・統計

令和8年(2026年)10月9日、厚生労働省が「令和8年版 過労死等防止対策白書」を公表しました。

今回の白書では、令和7年度(2025年度)に仕事による精神障害で労災の支給決定を受けた件数が1,082件となり、7年連続で過去最多を更新しました。

11月は「過労死等防止啓発月間」です。
この記事では、白書の数字を読みながら、小規模な事業所が今できる備えを整理します。

過労死等防止対策白書とは

過労死等防止対策白書は、過労死等防止対策推進法に基づいて、政府が毎年国会に報告する年次報告書です(同法第6条)。
今回で11回目になります。

この法律でいう「過労死等」は、次のものを指します(同法第2条)。

  1. 業務における過重な負荷による、脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
  2. 業務における強い心理的負荷による、精神障害を原因とする自殺による死亡
  3. 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

亡くなった場合だけでなく、病気になった場合も含まれる点がポイントです。

令和7年度の労災補償の状況

白書によると、令和7年度の労災の支給決定件数は次のとおりです。

区分支給決定件数前年度との比較
脳・心臓疾患217件
(うち死亡67件)
24件減
精神障害1,082件
(うち自殺〈未遂を含む〉76件)
26件増

※民間雇用労働者の業務災害の件数です(複数業務要因災害を含みません)。

脳・心臓疾患は前年度より減りましたが、精神障害は令和元年度(2019年度)以降増え続けています。
令和元年度の509件と比べると、約2.1倍です。

身近な数字と比べると

精神障害の支給決定1,082件は、1日あたり約3件の計算になります。
毎日どこかの職場で、3人が仕事による精神障害で労災と認められている、ということです。

また、令和7年度に過労死等で労災認定された死亡は143件でした(脳・心臓疾患の死亡67件、精神障害の自殺〈未遂を含む〉76件)。
令和6年(2024年)に、転落やはさまれなどの労働災害で亡くなった方は746人です(厚生労働省「労働基準監督年報」)。
年と年度、統計の種類が異なるため参考としての比較ですが、事故による死亡の約2割に当たる数が、働き過ぎや心理的負荷による死亡として認められていることになります。

なお、脳・心臓疾患の支給決定のうち、約3割(217件中67件)が死亡事案です。
亡くなった事案は遺族が請求し、認定に至りやすいという面もありますが、それだけ重い結果につながりやすい問題だといえます。

精神障害が増えている背景|会社が対応すべき事案が増えている

白書は、精神障害の労災請求が増えている背景を分析しています。

原因となった出来事は「パワーハラスメント」が最多

精神障害の労災支給決定事案について、発病に関わった出来事を見ると、全業種で最も多いのは「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」でした。

また、出来事の類型別に見ると、ここ数年で最も伸びているのは「対人関係」で、中でも「上司とのトラブル」の伸びが大きくなっています。

労働局への相談も約2倍に

都道府県労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」と「パワーハラスメント」に関する相談は、令和7年度に合計13万3,128件でした。
平成27年度(2015年度)の6万6,566件の約2倍です。
 ※令和4年(2022年)4月の労働施策総合推進法の全面施行により、「パワーハラスメント」が世間に認知された(件数増につながった)可能性も考えられます。

白書は、これらのデータから、上司とのトラブルなど対人関係で心の問題を抱える労働者が多いことは明らかとしています。
一方で、それが労災請求の増加の原因かどうかについては「なお分析の余地がある」としています。

ここで押さえておきたいのは、パワーハラスメントや上司とのトラブルは、会社が予防や対応に取り組める領域だという点です。
職場のパワーハラスメントを防止するための措置は、すべての事業主の義務です(労働施策総合推進法第30条の2)。
また、令和8年10月からは、カスタマーハラスメントの防止措置も義務化されています。

事業主が講じるべき措置については、「ハラスメント対策義務化|事業主が講じるべき措置」で解説しています。

業種別では「医療、福祉」が最多

精神障害の労災請求を業種別に見ると、「医療、福祉」が最も多く、中でも介護事業などを含む「社会保険・社会福祉・介護事業」が最多です。
出来事としては「対人関係」が中心です。

また、白書が重点的に調べている業種のうち「医療」では、精神障害の事案の3年度ごとの平均件数が、平成24〜26年度(2012〜2014年度)と比べて約3倍になっています。

「建設業」や「自動車運転従事者」も大幅に増えています。

脳・心臓疾患|長時間労働は減っても、請求は増えている

脳・心臓疾患についても、白書は注目すべき傾向を示しています。

  1. 週の労働時間が40時間以上の雇用者のうち、60時間以上働く人の割合は、令和7年に7.7%で、長期的に減っています。
  2. 一方で、脳・心臓疾患の労災請求は増加傾向にあります。
    白書は、病気にかかりやすい50歳以上の請求が増えたことが主な原因と考えられるとしています。
  3. 支給決定のうち、時間外労働が月80時間未満の事案も、緩やかに増えています。

働く人の高齢化が進む中、「残業が月80時間を超えなければ大丈夫」とは言い切れない状況です。
長時間労働の監督指導の結果については、「疑わしい事業場の4割弱で違法残業」もご覧ください。

休むことも対策の一つ|年次有給休暇の取得率

白書は、今後の取組みの方向性として、長時間・過重労働の防止とあわせて、休日の確保や休暇の取得促進を挙げています。

年次有給休暇の取得率は、令和6年に66.9%で、10年連続で上がりました。
10年前の平成27年(2015年)は48.7%でしたから、着実に増加しています。
ただし、白書が掲げる目標は70%です。
まだ道半ばといえます。

取得率は、付与された日数のうち、実際に取得した日数の割合です。
例えば、付与日数が20日(勤続6年6か月以上)の方が70%を取得すると、年14日になります。
月に1日ずつ取得しても年12日なので、目標には届きません。

取得を進める方法の一つが、計画的付与です。
労使協定を結べば、付与日数のうち5日を超える部分について、会社が取得日をあらかじめ決めることができます(労働基準法第39条第6項)。
夏季や年末年始に組み合わせて連休にする、閑散期に一斉に休む、といった使い方があります。

年次有給休暇の基本的なルールは「「休日」と「休暇」の違いとは」で、パート・アルバイトの付与日数は「シフト制の年次有給休暇」で解説しています。

小規模事業所に関わる動き

白書の施策の報告から、小規模事業所に関わるものを紹介します。

  1. 小規模事業場のストレスチェックの義務化(令和10年〈2028年〉4月1日施行) 従業員50人未満の事業場でも、ストレスチェックが義務になります。令和7年の実施割合は32.5%にとどまっています。
  2. カスタマーハラスメントの防止対策の強化(令和8年10月1日施行) 顧客や取引先からの著しい迷惑行為から、従業員を守るための措置が求められています。
  3. 「過重労働解消キャンペーン」(11月) 長時間労働が疑われる事業場への重点監督や、全国一斉の無料電話相談などが行われます。

今できる備え

最後に、今のうちに確認しておきたいことをまとめます。

  1. 労働時間を客観的に把握しているか(労働安全衛生法第66条の8の3)。タイムカードなどの記録に基づいているか。
  2. 長時間労働をした従業員への医師の面接指導の体制があるか(同法第66条の8)。
  3. ハラスメントの防止方針を定め、従業員に周知しているか。
  4. 相談窓口を設けているか。 社内の窓口のほか、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」なども紹介できます。
  5. 年次有給休暇の取得状況を把握しているか。 年5日の取得義務を満たしているか、計画的付与を活用できないか。

まとめ

  1. 令和7年度の精神障害の労災支給決定は1,082件で、7年連続の過去最多です。1日あたり約3件の計算です。
  2. 原因となった出来事では、パワーハラスメントが最も多く、対人関係、特に上司とのトラブルが伸びています。いずれも、会社が予防や対応に取り組める領域です。
  3. 脳・心臓疾患は、長時間労働が減る中でも請求が増えており、支給決定の約3割が死亡事案です。
  4. 年次有給休暇の取得率は66.9%と前進していますが、目標の70%には届いていません。計画的付与なども活用して、休める職場づくりを進めましょう。

労務のご相談は、「労務相談」のページで、対応内容と料金の目安をご紹介しています。
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本記事は執筆時点(令和8年10月)の公表資料に基づく情報です。制度の詳細は今後の法改正等により変更される可能性があります。