令和8年10月1日、パートタイム・有期雇用労働法に基づく「同一労働同一賃金」のルールが改正されます。
106万円の壁の撤廃と同じタイミングでの施行ですが、こちらは社会保険ではなく、パートタイム労働者・有期雇用労働者と正社員(通常の労働者)との間の待遇差に関するルールです。
対象となる事業主は、正社員以外の雇用形態(パートタイム労働者・有期雇用労働者)を1人でも雇用しているすべての事業主です。
今回は、何がどう変わるのか、事業主として何を準備すればよいのかを整理します。
今回の改正の全体像
今回の改正は大きく3点です。
- 労働条件明示事項の追加(パートタイム・有期雇用労働法施行規則)
- 同一労働同一賃金ガイドラインの改正(不合理な待遇の禁止等に関する指針)
- 雇用管理指針の改正(事業主が講ずべき雇用管理の改善等に関する措置についての指針)
変更点①:労働条件明示事項に「説明を求める権利」を追加
パートタイム労働者・有期雇用労働者を雇い入れる際、事業主は現行でも「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」などを文書交付等により明示する義務があります。
今回の改正では、これらに加えて以下が新たに明示事項として追加されます。
- (正社員との)待遇の相違等に関する説明を求めることができる旨
つまり、「待遇差に疑問があれば説明を求める権利がある旨」を書面に記載する、という趣旨の改正です。従来より、「求めがあった場合の説明義務」はありましたが、「権利がある旨の記載」が必要となります。
厚生労働省のモデル労働条件通知書には以下の文言を追加する仕様になっています。
次の窓口に対して通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる。
部署名 担当者職氏名 (連絡先 )
この労働条件明示に関する義務に違反した場合、10万円以下の過料の対象とされています。
明示事項の追加分について社内の労働条件通知書(雇用契約書)のひな形を見直しておく必要があります。
変更点②:同一労働同一賃金ガイドラインの追加・拡充
「同一労働同一賃金ガイドライン」(不合理な待遇禁止指針)は、正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間で、どのような待遇差が「不合理」とされるかの考え方を示したものです。
今回の改正では、これまで明確な記載がなかった、または記載が薄かった待遇項目について、判断の枠組みが追加・拡充されています。
いくつかをピックアップします。
| 待遇項目 | 改正で明確化される内容(要点) |
|---|---|
| 賞与 | 支給の性質・目的(労務対価の後払い、功労報償、生活費の補助、意欲向上など)に応じて判断 |
| 退職手当 | 支給の性質・目的(労務対価の後払い、功労報償など)に応じて判断 |
| 住宅手当 | 転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるものという性質に照らし、正社員と同一の転居を伴う配置の変更がある場合は同一の支給が必要 |
| 家族手当 | 扶養家族の生活費補助という性質に照らし、相応に継続的な勤務が見込まれる労働者の生活実態が同様であれば同一の支給が必要 |
| 無事故手当 | 通常の労働者と業務の内容が同一の非正規雇用労働者には通常の労働者と同一の手当が必要 |
| 夏季・冬季休暇 | 「心身の回復を図る」という性質に照らし、一定の期間勤続した労働者に付与するものである場合は同一の支給が必要 |
| 病気休職 | 無期雇用契約者は当然に、契約更新が反復される有期雇用労働者についても、通常の労働者と同様の付与が必要 |
| 褒賞 | 例えば、永年勤続表彰は「一定期間の勤続への表彰」という性質に照らし、同じ期間勤続した労働者に付与するものである場合は同一の支給が必要 |
| 福利厚生施設 | 給食施設・休憩室・更衣室は同一の利用条件(利用料金・割引率等)が必要。 |
いずれも「必ず正社員と同一にしなければならない」という一律の話ではなく、個々の待遇の性質・目的に照らして、パートタイム労働者・有期雇用労働者の職務内容や配置転換の範囲などが正社員と同様かどうかで判断が変わる点は、改正後も同じ考え方が維持されます。
性質・目的を考慮すると、各種手当(家族手当や無事故手当)や福利厚生(休暇や教育訓練含む)、褒賞は同一の支給・付与・提供が前提の制度設計が必要です。
その上で、考慮すべき事情の有無の特定、当該事情に応じた均衡扱いの判断が必要です。
これまで判断材料が乏しかった項目について、最高裁判例(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件など)の内容を踏まえた考え方が具体的に示されることになりました。
「うちは対象外」と思っていた手当が実は見直しの対象になる可能性があります。
変更点③:雇用管理指針(事業主が講ずべき措置)も改正
雇用管理指針は、パート・有期雇用労働者の雇用管理の改善などについて、事業主が講ずべき措置や望ましい取り組みを示すものです。
- 待遇の相違等の説明:「資料を活用し、口頭により説明する方法」または「資料を交付」を実施
- 正社員への転換推進:単なる制度の周知だけでなく、面談や電子メール等を活用し、個別に「正社員への転換意向」を確認し、配慮することを要請
- 育成・評価:教育訓練の機会確保、賃金を決定する際には、職務の内容や成果、意欲、能力、経験をはじめとする要素を公正に評価し、昇給に反映するなど
今、事業主が確認しておくべきこと
施行(令和8年10月1日)に向けて、以下の点を確認しておくことをおすすめします。
- 労働条件通知書(雇用契約書)のひな形の見直し:「説明を求めることができる旨」と相談窓口の記載が追加されているか
- 正社員とパート・有期雇用労働者の待遇の棚卸し:賞与・退職手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・病気休職などについて、正社員との違いとその理由を整理できているか
- 説明を求められた場合の対応フローの確認:誰が、どのような資料をもとに説明するかを決めておく
- 就業規則・給与規程等との整合性の確認:ガイドラインの改正内容と、自社の規程・運用にズレがないか
特に、賞与や退職手当については「正社員にはあるが、パート・有期雇用労働者には制度自体がない」というケースも多く見られます。
制度がないこと自体が直ちに違法となるわけではありませんが、なぜその制度を設けていないのか、あるいは設けているのに支給対象から外しているのかを、性質・目的に照らして説明できるようにしておくことが重要です。
まとめ
今回の改正は、106万円の壁の撤廃(社会保険の適用拡大)とあわせて令和8年10月1日に施行されます。
社会保険の適用拡大が「加入対象を広げる」改正であるのに対し、こちらは「正社員とパート・有期雇用労働者の待遇差の説明責任を明確にする」改正といえます。
まずは自社の待遇(特に賞与・退職手当・各種手当)を棚卸しし、正社員との違いとその理由を整理しておくところから始めることをおすすめします。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の公表資料に基づく情報です。制度の詳細・施行時期は今後の政令等により変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。


