シフト制勤務における残業と早帰り|知っておきたい休業手当の考え方

シフト制勤務における残業と早帰り|知っておきたい休業手当の考え方 働きやすい職場づくり

「今日はお客さんが少ないから、早めに上がってもらおう」
シフト制で働くスタッフを抱える小売業・飲食業などでは、こうした対応が日常的に行われています。しかし、シフト制勤務は所定労働時間が日によって異なるため、残業代の計算や、急な早帰り(シフトカット)の際の対応を誤りやすいという特徴があります。

本コラムでは、シフト制勤務における残業の考え方と、早帰りをさせた場合の休業手当の扱いを整理してご紹介します。

シフト制勤務とは

厚生労働省は、シフト制を「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務シフトなどで、初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態」と説明しています。

あらかじめ決められた勤務パターンを繰り返す交代制勤務とは異なり、労働者の希望や繁閑に応じて、毎回異なる労働日・労働時間が組まれる点が特徴です。

残業の考え方:法定内残業と法定外残業

シフト制勤務では、シフトごとに所定労働時間が異なるため、「何時間働けば残業になるか」を、その日のシフトに応じて個別に判断する必要があります。

  • 法定内残業:所定労働時間を超えているが、法定労働時間(1日8時間・週40時間)は超えていない部分。
     →割増賃金の支払いは不要で、通常の時給(1時間あたりの賃金)を支払えば足ります
  • 法定外残業:法定労働時間(1日8時間)を超えた部分。
     →25%以上の割増賃金の支払いが必要です(月60時間を超える部分はさらに割増率が上がります)

たとえば、所定労働時間6時間のシフトで実際に9時間働いた場合、8時間までの2時間分は法定内残業(割増不要)、8時間を超えた1時間分は法定外残業(25%以上の割増)という扱いになります。
日によってシフトの長さが異なるシフト制勤務では、この「法定内か法定外か」の線引きを、シフトごとに確認する必要がある点に注意が必要です。

なお、あらかじめ1か月単位や1年単位の変形労働時間制を適切に導入している場合は、期間内で平均して法定労働時間に収まっていれば、シフト上の所定労働時間を超えて働いても法定外残業とならないケースがあります。
単に「シフト制で働かせている」というだけでは変形労働時間制を導入したことにはならず、就業規則への規定や労使協定の締結など、所定の手続きが必要です。

早帰り(シフトカット)と休業手当

労働基準法26条

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

「お客さんが少ないから」「業務が少ないから」といった事業主側の都合で、予定していたシフトを短縮したり、当日になって出勤を取りやめさせたりした場合、労働基準法26条に基づく休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いが必要になる可能性があります。

判例(最高裁昭和62年7月17日、ノースウエスト航空事件)では、冒頭の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法上の考え方よりも広い概念とされ、経営上・管理上の障害(業務量の減少等)も含まれるとされています。
工場設備などの故障、経営不振といった理由も使用者の責に帰すべき事由になります(休業手当が必要)。

業務縮小を理由にシフトを削減すること自体は違法ではありませんが、それによって労働者を休ませた場合には、休業手当の支払い義務が生じるのが原則です。

1日の一部だけ早帰りさせた場合

シフトの途中で早帰りさせるなど、1日の所定労働時間の一部のみを休業させた場合も、休業手当の考え方は変わりません。
実際に就労した時間分の賃金が、その日の平均賃金の60%に満たない場合は、差額を支払う必要があります。

たとえば、その日の平均賃金が10,000円であれば、休業手当の基準額は6,000円です。
半日だけ働いて得た賃金が5,000円だった場合、6,000円との差額である1,000円を追加で支払う必要があります。
半日分の賃金が7,000円であれば、6,000円を上回っているため、追加の支払いは不要です。

ここで注意したいのは、「少しの時間短縮なら休業手当は発生しない」という理解は正確ではないという点です。
あくまで、実際に働いた分の賃金が平均賃金の6割を超えているかどうかで決まります。
たとえば、8時間勤務の予定が7時間で終了した場合、支払われる賃金は本来の8時間分の87.5%相当になるため、多くの場合は6割を超え、差額の支払いは不要です。
一方、同じ8時間勤務の予定でも3時間で切り上げた場合は37.5%相当にとどまり、6割を下回るため、差額の支払いが必要になります。
短縮の程度によって結論が変わる点に注意が必要です。

シフト確定後のキャンセルは特に注意

一旦確定したシフトの労働日・労働時間を変更することは、原則として労働条件の変更にあたり、労働者との合意が必要とされています。
厚生労働省が示す留意事項でも、シフトの作成・通知の手続きや、確定後にキャンセル・変更する場合の期限・手続きを、あらかじめ労使で取り決めておくことが求められています。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査では、直近2年間でシフト確定後に事業主都合でキャンセルしたことがある企業の割合は、正社員で34.5%、非正規雇用労働者で37.7%にのぼりました。
決して珍しいことではない一方、休業手当の支払いを伴わないキャンセルはトラブルの原因になりやすいため、注意が必要です。

シフトが未確定だった日について

そもそもシフト表に組み込まれておらず、労働日・労働時間が確定していなかった日については、その日に働く権利・義務自体が発生していないため、休業手当の対象にならないと考えられるのが一般的です。
ただし、恒常的に一定の日数・時間のシフトに入っていた実態がある場合は、労働契約上の合理的な期待があるとして、取り扱いが争われるケースもあります。シフトの組み方や実態によって判断が分かれる部分のため、個別の状況に応じた確認をおすすめします。

労働者は残業・早帰りを拒否できるか

事業主側の視点だけでなく、労働者側から見た場合の考え方も整理しておきます。

残業命令は、原則として拒否できません。
36協定を締結し、かつ就業規則等に「業務上必要な場合は時間外勤務を命じることがある」といった残業命令の根拠規定がある場合、会社の残業命令には従業員が応じる義務があるとされています。
(日立製作所武蔵工場事件、最高裁|平成3年11月28日)
ただし、健康上の理由(診断書の提出等)、育児・介護などのやむを得ない事情がある場合や、そもそも36協定・就業規則の根拠がない場合、命令の内容が不当・過大な場合には、拒否が認められることがあります。
(トーコロ事件、東京高裁|平成9年11月17日)

早帰り(シフトカット)については、少し性質が異なります。
業務量に応じてどこまで働かせるかは使用者の裁量に委ねられているため、労働者側が「最後まで働かせてほしい」と主張して覆すことは基本的にできません。
その代わりに労働者を保護する仕組みが、ここまで説明してきた休業手当です。
つまり「早帰りそのものを拒否する」のではなく、「早帰りさせられた分は経済的に補償される」という形で、労働者の権利が確保されているという構造になっています。

トラブルを防ぐためのシフト運用のポイント

厚生労働省が示す留意事項を踏まえると、以下のような点をあらかじめ労使で取り決め、就業規則や雇用契約書等に明記しておくことが有効です。

  • シフト作成時に、労働者の希望を聴く機会を設けること
  • シフトの確定・通知の期限や方法(例:毎月◯日までにメールで通知する等)
  • 確定した労働日・労働時間をキャンセル・変更する場合の期限や手続き
  • 一定期間における目安の労働日数・労働時間数(最大・最低の目安を含む)

これらをあらかじめルール化しておくことで、急な早帰りやシフト変更が発生した場合でも、休業手当の要否を含めた対応がスムーズになります。
就業規則へのルールの落とし込み方については、就業規則作成のススメもあわせてご覧ください。

なお、休業手当を支払えば法律上は問題ないからといって、早帰りや残業の依頼を安易に繰り返すことはおすすめできません。
急な予定変更が続けば、労働者にとっては収入の見通しが立てにくくなり、生活設計への不安につながります。
特にシフト制勤務は、他の勤務先との掛け持ちや、家庭の予定との調整を前提に働いている労働者も多いため、シフトの安定性そのものが「働きやすさ」に直結します。
休業手当はあくまで最低限の補償であり、それを理由に人員配置の調整弁として乱用すると、人材の定着率低下や採用面での悪影響につながりかねません。

まとめ:シフトの運用ルールを明確にしておく

シフト制勤務では、日ごとに異なる所定労働時間に応じた残業の判断と、事業主都合による早帰り・シフトカット時の休業手当の対応が、実務上のつまずきやすいポイントになります。
特にシフト確定後のキャンセルは、休業手当の支払い義務が生じやすい場面です。

「自社のシフト運用ルールを見直したい」「早帰りさせた場合の休業手当の計算方法を確認したい」といったご相談は、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。

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本記事は執筆時点の公表資料に基づく情報です。法令の内容は随時見直されることがあります。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。