「パート・アルバイトの時給を上げたいが、費用負担が大きくて踏み切れない」
そんな中小企業の賃上げを後押しするのが、キャリアアップ助成金の「賃金規定等改定コース」です。
有期雇用労働者等の基本給を定める賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用した事業主に対して、労働者1人あたり最大7万円が支給されます。
本コラムでは、令和8年度時点の情報として、支給額・対象労働者・対象事業主の要件、加算措置の内容を整理してご紹介します。
※キャリアアップ助成金には全6コースがあります。各コースの比較はキャリアアップ助成金の全コース一覧をご覧ください。
賃金規定等改定コースとは
有期雇用労働者等(有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者)の基本給を定める賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を実際に適用させた事業主を支援する制度です。
ここでいう「賃金規定等」とは、就業規則や労働協約における賃金額の定めのことで、賃金規定そのものだけでなく、「賃金テーブル」や「賃金一覧表」も増額改定の対象とみなされます。既存の賃金規定等を改定する場合だけでなく、賃金規定等を新たに作成する場合も、その内容が対象労働者の過去3か月の賃金の支給実態と比較して3%以上増額していることが確認できれば、助成の対象になります。
一部の有期雇用労働者等の賃金のみを増額する場合でも、その区分が雇用形態別・職種別・その他合理的な理由(部門別等)に基づいて区分されている場合に限り、対象労働者として認められます。
対象事業主の要件
【まず確認】今の状態で自己診断できるもの
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 有期雇用労働者等に適用される賃金規定等を作成していること
- 増額改定前の賃金規定等を3か月以上運用していたこと(新たに賃金規定等を整備する場合は、整備前3か月分の有期雇用労働者等への賃金支払状況が確認できること)
- 実施するコースの対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができること
【事前準備】取組の実施前に整えるもの
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いていること(複数の事業所および労働者代表との兼任は不可)
- 対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長に提出していること(賃金規定等の増額改定を行う前日まで)
キャリアアップ管理者とは、事業所ごとに、有期雇用労働者等のキャリアアップに取り組む者として必要な知識・経験を有していると認められる者のことです。
事業主自身や役員が兼任することもできます。
【取組の実施】
- 賃金規定等を3%以上増額改定し、当該賃金規定等に属する有期雇用労働者等に適用させたこと
【申請前】取組後、申請までに確認すること
- 増額改定後の賃金規定等を6か月以上運用し、かつ対象労働者について定額で支給されている諸手当を減額していないこと
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んでいること(支給申請時点で、このコースに定めるすべての支給要件を満たしていること)
対象労働者の要件
- 賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して3か月以上前の日から、増額改定後6か月以上の期間継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者等であること
- 就業規則または労働協約に定めるところにより、増額改定した賃金規定等を適用され、かつ増額改定前の基本給に比べて3%以上昇給していること(最低賃金の引き上げに伴う増額分は、最低賃金に達するまでの部分を含めることはできません)
- 賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して3か月前の日から支給申請日までの間に、合理的な理由なく基本給および定額で支給されている諸手当を減額されていないこと
- 賃金規定等を増額改定した日以降の6か月間、当該事業所において雇用保険被保険者であること
- 賃金規定等の増額改定を行った事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族でないこと
- 支給申請日において離職していないこと
支給額
賃金の引き上げ率に応じて、労働者1人あたり以下の金額が支給されます。
| 賃金引き上げ率 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 3%以上4%未満 | 4万円 | 2.6万円 |
| 4%以上5%未満 | 5万円 | 3.3万円 |
| 5%以上6%未満 | 6.5万円 | 4.3万円 |
| 6%以上 | 7万円 | 4.6万円 |
1年度(4月1日〜翌年3月31日)につき、1事業所あたりの支給申請上限人数は100人です。
増額率の判定は小数点以下切り捨てで行われます。たとえば計算結果が2.98%の場合、3%に切り上げられることはなく支給対象外となるため、時給の端数設定には注意が必要です。
ここでの「中小企業」の具体的な資本金・従業員数の基準は助成金でよく出てくる「中小企業事業主」とは?をご確認ください。
加算措置
1事業所あたり、以下の加算があります(いずれも1事業所1回のみ)。
| 措置内容 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合 | 20万円 | 15万円 |
| 有期雇用労働者等に適用される昇給制度を新たに規定した場合 | 20万円 | 15万円 |
職務評価とは、職務の大きさ(職務内容・責任の程度)を相対的に比較し、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかを把握する取組です。
・個々の労働者の仕事への取り組み方や能力を評価する人事評価・能力評価とは異なります
・加算を受けるには、賃金規定等の改定より前(同日も可)に職務評価を実施し、その結果を改定に反映させている必要があります。
・正規雇用労働者の職務評価を実施していなければ加算の対象になりません。
申請の流れ・申請期限
【事前準備】キャリアアップ計画の作成・提出(賃金規定等改定の実施日の前日まで)
【取組の実施】賃金規定等を3%以上増額改定し、対象労働者に適用
【申請】増額改定後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に支給申請
申請先は、いずれも事業所の所在地を管轄する都道府県労働局です。
よくある質問
Q. 一部のパート・アルバイトだけ賃上げしても対象になりますか?
雇用形態別・職種別・その他合理的な理由(部門別等)に基づく区分であれば、一部の有期雇用労働者等のみを対象とした賃上げでも対象になります。ただし、区分に理由がなく恣意的に一部の労働者だけを選んでいる場合は対象になりません。
Q. 最低賃金の引き上げにあわせて時給を上げた場合も対象になりますか?
最低賃金の効力が生じた日以降に賃金規定等を増額した場合、最低賃金に達するまでの増額分は3%の判定に含めることができません。最低賃金の引き上げ分を上回る増額改定を行う必要があります。
Q. 職務評価と人事評価は同じものですか?
異なります。人事評価は労働者個人の勤務態度や成果を評価するものですが、職務評価は「職務」そのものの大きさを比較するものです。職務評価加算を受けるには、人事評価ではなく職務評価の結果が賃金規定等の改定に反映されている必要があります。
Q. 新たに賃金規定等を作成した場合でも対象になりますか? 対象になります。既存の規定を改定する場合だけでなく、新たに賃金規定等を作成する場合も、その内容が対象労働者の過去3か月の賃金支給実態と比較して3%以上増額していることが確認できれば、助成の対象になります。
まとめ:賃上げの費用負担を抑えながら処遇改善を
賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者等の基本給を3%以上引き上げることで、労働者1人あたり最大7万円(大企業は4.6万円)が支給される制度です。職務評価や昇給制度の新設を組み合わせれば、1事業所あたり最大40万円の加算も受けられます。パート・アルバイトの処遇改善を検討している事業者にとって、活用しやすいコースの一つです。
「賃金規定等の改定方法が分からない」「職務評価加算の要件を満たせるか確認したい」といったご相談は、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時点(令和8年度)の公表資料に基づく情報です。助成金の要件・支給額等は、年度改定に限らず随時見直されることがあります。最新情報は厚生労働省公式サイトでご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。




