採用のたびに賃金を悩まないために|最低賃金・ベアにも対応できる賃金テーブルの作り方

採用のたびに賃金を悩まないために|最低賃金・ベアにも対応できる賃金テーブルの作り方 労務トラブル・実務対応

採用のたびに、ゼロから賃金を決めていませんか

求人に応募があるたびに、「前に採用した人はいくらだったか」「この経験なら、いくらが妥当か」と、ゼロから考えていないでしょうか。

以前お手伝いした会社でも、「採用のたびに金額を決めるのが大変」というお悩みがありました。
決めるのに時間がかかるだけでなく、後から既存の社員との差に気づいて、対応に困ることもあったそうです。

小さな会社の労務BCPでは、担当者が不在でも止めてはいけない業務と、その備え方を取り上げました。
今回は、社長の頭の中にある「判断の基準」を表にしておく、賃金テーブルの作り方を整理します。

その都度決める賃金で起きやすいこと

賃金をその都度決めていると、次のようなことが起きやすくなります。

  1. 既存社員との逆転 採用の時期の相場に引っ張られて、新しく入った人のほうが、同じ仕事をしている既存の社員より高くなることがあります。
  2. 決めた理由を説明できない 「なぜこの金額なのか」を説明できないと、不満や不信感につながります。
  3. 待遇差を説明しにくい 正社員とパート・有期雇用の社員との間で、不合理な待遇差を設けることは禁止されており(パートタイム・有期雇用労働法第8条)、パート・有期雇用の社員から求められた場合には、待遇差の内容と理由を説明する義務があります(同法第14条第2項)。基準がなければ、説明の根拠を示しにくくなります。
  4. 最低賃金の改定を見落とす 最低賃金は、毎年10月前後に改定されます。基準となる表がないと、誰が下回るのかを見落としやすくなります。

なお、同一労働同一賃金のルールのもとでも、評価の結果として賃金に差が出ることは認められています。
厚生労働省の指針(いわゆる同一労働同一賃金ガイドライン)では、基本給を能力や経験、業績・成果、勤続年数などに応じて支給する場合、実態が同じなら同じ額を、違いがあれば違いに応じた額を支給することを求めています。
大切なのは、差を付ける基準が客観的で、説明できることです。

パート・有期雇用の待遇差の説明については、【令和8年度法改正】パート・有期の同一労働同一賃金で解説しています。

賃金テーブルとは

賃金テーブル(賃金表)とは、基本給の金額を、あらかじめ表にしたものです。
一般的には、仕事の難しさや役割の段階を表す「等級」と、同じ等級の中での段階を表す「号俸」を組み合わせて作ります。

等級を何で決めるかには、仕事の内容で決める考え方(職務給)や、能力で決める考え方(職能給)などがあります。
ただ、小さな会社では、厳密な制度を作るよりも、「仕事の段階」と「経験年数」程度の分かりやすい基準のほうが、運用しやすいことが多いと感じます。

この記事では、正社員の月給の賃金テーブルを前提に説明します。
パート・アルバイトの時給にも、同じ考え方を使えます。

作る前に決める3つのこと

1. 何を基準にするか

仕事の段階、経験年数、資格など、何によって金額が変わるのかを決めます。
ポイントは、従業員に聞かれたときに、自社の言葉で説明できる基準にすることです。

2. 最低賃金との関係

最低賃金は時間額で決められています。
月給制の場合は、月給を時間額に換算して比べます。

月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

このとき、通勤手当、精皆勤手当、家族手当、時間外労働の割増賃金などは、月給から除いて計算します。

賃金テーブルでは、一番下の段(初任の段階)が、改定後の最低賃金を下回らないかを確認できるようにしておくことが大切です。
最低賃金を下回る賃金の定めは、その部分が無効になり、最低賃金と同じ定めをしたものとみなされます(最低賃金法第4条第2項)。

今年度の京都府の最低賃金については、京都府の最低賃金2026をご覧ください。

3. 既存社員をどう扱うか

今いる社員の賃金を表に当てはめると、表より高い人、低い人が出てきます。
どう扱うかは、次の「就業規則との関係」によって変わります。

就業規則に盛り込むか、判断の基準にとどめるか

賃金テーブルには、大きく2つの使い方があります。

A:就業規則(賃金規程)に盛り込むB:経営者の判断の基準として持つ
規程の書き方の例「基本給は、別表の賃金表による」「基本給は、職務・能力・経験等を勘案して各人ごとに決定する」
表の位置づけ労働契約の内容になる社内(経営者)の目安として使う
表より低い既存社員表の水準まで引き上げる必要がある引き上げは必須ではない
(公平性の観点で検討)
表より高い既存社員下げる場合は、労働条件の不利益変更にあたる現状のままでよい
表を改定するとき就業規則の変更の手続きが必要社内で更新すればよい

A:就業規則に盛り込む場合

賃金表を就業規則の一部にすると、表の内容が労働契約の内容になります(労働契約法第7条)。
そのため、表より低い賃金で働いている社員は、表の水準まで引き上げる必要があります(同法第12条)。

一方、表より高い社員の賃金を下げることは、労働条件の不利益変更にあたり、原則として本人の合意が必要です(同法第9条)。
就業規則の変更によって行う場合も、変更の合理性が問われます(同法第10条)。

表より高い人の賃金を据え置くこと自体は可能ですが、表との差を見える形にしたい場合は、基本給を表の金額にして、差額を「調整手当」として支給し、昇給のときに少しずつ表に近づけていく方法があります。

また、常時10人以上の事業場では、表を改定するたびに、就業規則の変更として労働者代表の意見を聴き、労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第89条・第90条)。

B:判断の基準として持つ場合

賃金テーブルを、採用時や昇給時に経営者が判断するときの「よりどころ」として使う方法です。
この場合、表は社内の目安で、労働契約の内容にはなりません。
既存社員の賃金は、現状のまま追認して始めることができます。

ただし、表より低い既存社員をそのままにしておくと、新しく採用した人との逆転という、もともとの問題が残ります。
昇給のときに少しずつ表に近づける計画は持っておきたいところです。

なお、賃金の決定・計算の方法は、就業規則に必ず記載しなければならない事項です(労働基準法第89条第2号)。
Bの場合も、規程にどこまで具体的に書くかは、会社の実情に合わせて検討が必要です。

どちらから始めるか

小さな会社では、まずBの「判断の基準」として作り、運用しながら表を見直していく進め方が現実的だと考えています。
運用が固まってから、就業規則に盛り込む(A)ことを検討してもよいでしょう。

「定期昇給」と「ベースアップ」の違い

賃金テーブルを作ると、昇給の考え方も整理しやすくなります。

  • 定期昇給:表の中で、号俸や等級が上がること。表そのものは変わりません。
  • ベースアップ(ベア):表の金額そのものを書き換えること。物価の上昇や、最低賃金の引上げへの対応として行います。

表をExcelで作っておけば、ベアの率を入力するだけで、表全体を一括で書き換えられます。
最低賃金の改定のときも、下の段だけを引き上げるのか、全体を引き上げるのかを、人件費の総額とあわせて試算できます。

Excelで作るときのポイント

  1. 設定と表を分ける 基準となる金額や昇給額、ベアの率を入力する「設定シート」と、表そのものを分けておくと、改定のときに数字を入れ替えるだけで済みます。
  2. 最低賃金の下限を自動でチェックする 最低賃金の時間額と、1か月平均所定労働時間を入力すると、下回る段に色が付くようにしておきます。
  3. 既存社員の位置を一覧にする 今の社員の賃金を入力して、表のどこに位置するか、表との差がいくらかを一覧で見られるようにします。
  4. 改定の履歴を残す いつ、どの段を、何%上げたのかを記録しておくと、翌年以降の判断材料になります。

当事務所では、会社の実態に合わせた賃金テーブルをExcelで作成し、納品後は自社で改定・カスタマイズできる形でお渡ししています。

まとめ

賃金テーブルは、社長の頭の中にある「判断の基準」を、誰にでも説明できる形にするものです。

採用のたびに悩む時間を減らせるだけでなく、既存社員への説明や、パート・有期雇用の社員との待遇差の説明、最低賃金や物価上昇への対応もしやすくなります。

就業規則に盛り込むか、判断の基準として持つかで、既存社員の扱いや改定の手続きが変わります。
自社に合った使い方を、一緒に考えるところからお手伝いします。

賃金テーブルの作成など労務の効率化のご相談は、「労務効率化支援」のページで、支援の内容と進め方をご紹介しています。
ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

本記事は執筆時点(令和8年度)の法令・公表資料に基づく情報です。制度の詳細・運用は今後の法改正等により変更される可能性があります。個別の事案については、貴社の実情を踏まえたご相談をおすすめします。